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提携米研究会では、1997年に提携米栽培出荷基準と提携米商標権運用要綱を策定し、毎年1回、生産者と消費者による産地確認会を実施しています。この背景をすこし説明します。当時、有機農産物などの基準や認証のあり方が有機農業関係者、農林水産省などで議論になりました。そのなかで、認証制度は、特別栽培制度やJAS法による有機認証など、第三者認証を前提にしていました。これは、「付加価値」をつけるためには、客観的な認証のしくみが必要だという市場流通の考え方から取り入れられたものです。一方、それまでの有機農業は、「産消提携」という言葉に象徴されるように、生産者と消費者が流通を介さずお互いの「顔の見える関係」、人と人との関わりを大切にしようという取組みを続けていました。現在でも、この産消提携と市場流通における認証というふたつの流れは変わりません。

その中で、提携米研究会(当時は、提携米ネットワーク)でも、基準や認証のあり方について議論を繰り返し、提携米としては、第三者認証を前提にせず、生産者と消費者の関係性を大切にした形の基準や認証にしようということになり、二者認証という形で、栽培出荷の基準と流通の取り決めをしました。
実際には、生産者と個人の取引、生産者(団体)と流通団体、消費者団体との取引という形があります。また、それぞれの生産者や団体は、取引先の要望や自らの考え方で第三者認証(特別栽培やJAS有機)を受けることもあります。それとはべつに、有機農産物等の流通団体などでは独自の栽培基準もあり、その帳票も団体ごとにまちまちだっりしました。パソコンやインターネット環境がまだ普及期だったこともあり、手書きでの文書作成も多く、その文書管理は生産者にとっては煩雑な手間になっていました。そこで、提携米研究会でも栽培管理の書式を作った上で、その内容を満たしていれば、他の団体等の書式でも構わないという対応をすることにしました。
そして、産地を事務局、消費者とともに、できれば他の産地の生産者も参加して、産地の栽培状況、課題、取組み、工夫などを田んぼで話し合うことを重視することにしました。

2000年から毎年、産地を訪問しています。
この間には、2003年の不作や年々の異常気象などがあります。農政でも、減反政策廃止方針、戸別所得補償政策、有機農業推進法、米トレーサビリティ法など様々な変化がありました。政策の変化によって、ある時期は、周辺で大豆の栽培が増えたり、加工米需要で稲の栽培が増えたりと、田んぼの風景も変化しています。そのほか、慣行栽培でのネオニコチノイド系農薬の登場、ラジコンヘリの普及などによる、農薬飛散対策やイネミズゾウムシの多発、外来植物の新たな水田雑草化などもあります。目に見える変化、目に見えない変化の中で、確認会が20年近く続いていることは、貴重な記録となり、取組みではないでしょうか。

 

■2017年の概要
2017年は、春の長期予報では暑い夏が想定されていましたが、実際には不順な夏となりました。地方差が大きいですが、東日本では5月後半から6月初旬にかけて低温があり、6月から7月前半の梅雨時期は、関東で空梅雨となりましたが、全国各地で局所的な大雨などがありました。7月後半から8月にかけては、東日本で総じて気温が低く、ところによっては日照不足となりました。特に、東北から関東にかけての太平洋側では低温と日照不足の影響で、稲や野菜などの農作物に大きな影響が出ています。
東北日本海側は、太平洋側ほどの日照不足ではありませんでしたが、気温はやや低めで、局所的な集中豪雨などがありました。
産地確認会は、2017年8月28日から31日にかけて、例年通り、新潟県加茂市の加茂有機米生産組合、山形県鶴岡市・庄内町の庄内協同ファームの提携米研究会個人会員、秋田県大潟村のライスロッヂ大潟・黒瀬農舎、秋田県三種町の山本開拓農場を回りました。

■加茂有機米生産組合(新潟県加茂市)
8月28日(月)に、橋本明子共同代表、清水淳一さん(ネットワーク草の根)、牧下圭貴(事務局)で訪問しました。
田んぼは、横田正稔さん・大竹直人さんが栽培しているほ場と、浅川和夫さんのほ場を回りました。

●横田さん、大竹さん
image 加茂有機米生産組合では、新潟県が基本としているコシヒカリBLではなく、従来型のコシヒカリを栽培しています。栽培認証としては、JAS有機米、特別栽培米になります。特別栽培は、初期除草剤1回の減農薬栽培です。このほか、酒米などの生産もあります。
加茂市周辺は、春先の天気は良かったものの、6月ぐらいから天候がやや悪くなり低温気味に。7月前半に雨が多く、降水量はやや多めとのことです。8月に入ると、台風5号でのフェーン現象があり、一度暑くなったものの、その後はやや涼しく、暑い日は少なめで、朝晩は涼しく、日照はすこし不足気味です。例年よりは1週間ほど稲刈りが遅れるようですが、地域内ですでに稲刈りがはじまった早い品種の「こしじわせ」などでは品質がよいということです。朝夕寒くて日中との寒暖差があるので、作物にとってはおいしくなる条件があり、期待できます。
加茂有機米生産組合には、平場の田んぼと山手の田んぼがあり、山手の方では、すこしいもち病がでているとのこと。また、近年イナゴが少なめでしたが、今年は久しぶりにイナゴの多い年になりました。例年より早く、アカトンボも平場まで降りてきていました。
栽培としては、コシヒカリの無施肥栽培、冬期湛水、紙マルチ栽培など、いくつかの方法に取り組んでいます。紙マルチ以外の除草は、チェーン除草が主で、多いところでは10回入る田もあるとのことです。冬期湛水田では回数は少なめで、とろとろ層のでき具合、水のにごり、プランクトンなどの湧きなどをみながら考えています。冬期湛水は、土質や田の水保ちなどをみて、できるところ、できないところの判断をしているとのことでした。
チェーン除草の除草機は、毎年改良を加えていき、ほぼ安定した形状になったようです。
また、最近は植える株数を減らし、必要な苗箱を減らす方向にあります。株数を減らせば風通しは良くなりますのでイモチ対策にもなりますし、コスト削減にも繋がります。その分だけ、稲をしっかり育てるのと陽が入りやすくなるので除草対策は必要ですが、有機農業でもコスト削減への工夫が続いています。横田さんたちは45株植えとのことです。
加茂有機米生産組合では、地元や新潟市内の小学校の、田んぼの田植え、稲刈りなどの体験学習を受け入れています。体験田もしっかり管理され、秋の収穫の時を待っていました。

●浅川和夫さん
image 洋なしのル・レクチェや、桃、ブドウなど果樹を本業として、米はJAS有機栽培米、特別栽培米(除草剤1回)でコシヒカリを栽培しています。今回は、田んぼを見る前に果樹園も見せていただきました。洋なしや桃、ブドウなどは木なりもものくだものです。木が健康でなければ実は育たず、花が咲いて実になるまでの天候に異常があれば実は売り物にならなくなります。また、実は需要となる時期を想定して最盛期を迎えるようにしていますが、最近の異常気象(気候変動)で時期がずれたり、病気が発生したりと、果樹をとりまく状況は悪くなる一方です。品種改良なども進められていますが、栽培管理にかける時間と手間は増えているようです。それでも、特産のル・レクチェにはファンが多く、できるだけ続けたいとのことでした。
浅川さんは、果樹の時期と稲の除草の時期が重なることから、有機栽培米は20年間、紙マルチ栽培を続けています。紙マルチ田植機は開発初期のもので「これが壊れたらJAS有機の無農薬栽培はできなくなる」と修理を繰り返しながら使い続けています。紙マルチ栽培は、田植えの時に、紙を敷いて、稲が植わる場所以外は光を防いでいくことから、その後の草取り作業を行わずに済みます。しかし、20年も続けていると、紙と紙の継ぎ目などからヒエが出て、増えるため、どうしてもヒエは目立ってしまいます。それでも、収量は1反7.5俵くらいと安定しており、昨年はすこし肥料を減らしても豊作気味だったとのことです。今年は穂揃いが8月5日、6日ぐらいと昨年より数日遅めですが、近年早い年が続いているので、これでも以前の平年並みとのことでした。今年は、天候の読みが難しく効き目が遅い有機の穂肥を入れるタイミングと量が難しかったとのことでした。
浅川さんの田んぼを回っていると、キジが田んぼの奥に隠れていました。田んぼのそばにはキジやカモの巣があるとのことです。


imageコシヒカリ

 


■庄内協同ファーム(山形県鶴岡市ほか)
庄内協同ファームは提携米研究会の団体会員であり、このうち3名の方が提携米研究会の個人会員として毎年産地確認をしています。
2017年8月29日(火)、橋本明子共同代表、清水淳一さん(ネットワーク草の根)、飯島定幸さん(ネットワーク農縁)、横田正稔さん・大竹直人さん(加茂有機米生産組合)と牧下圭貴(事務局)で、小野寺喜作さん・紀允さん、野口吉男さん、佐藤和則さんのそれぞれの田んぼを確認し、意見交換しました。

 

●小野寺紀允さん(山形県鶴岡市)
image image小野寺家は、農家民宿・母家(おもや)、農家レストラン・菜ぁが全国的にも知られる人気の店です。この経営とともに、JAS有機米、JAS有機のだだちゃ豆をふたりの兄弟が分担しています。兄の紀允さんは、米と母家、菜ぁの担当。料理や接客などが得意で人当たりもよく、仕事を楽しんでいます。稲作は、店で使ったり直販するひとめぼれと、出荷するつや姫、もち米のでわのもちで、すべてJAS有機認証を受けています。豆はあまり連作に向かないため、豆と田んぼを豆2年、米4年で田畑転換して、草の発生や豆による肥料効果などをうまくできるようにという理想を持ちつつ、それぞれの栽培状況や農地ごとの土質、環境などをみて順次転換しています。
稲の栽培は、紙マルチ栽培と、機械除草の二通りで、ほぼ半々です。豆の後の田んぼは、秋起こしをせずに紙マルチ栽培をしています。機械除草の方は、とろとろ層をつくることでの抑草にも取り組んでいます。枝豆の豆がらと米ぬかでぼかし肥料をつくって、荒代後、ぼかしを入れ、その後代かきをして田にうまくとろとろ層をつくり土を濁らせることで草を抑草します。昨年から九州の生産者の技術を導入し、気候条件、地温、土質などの違いを考えながらぼかしの状態や内容を変えつつ、試行しています。年に1度の米づくり、新しい挑戦は大変ですが、春先の作業を少しでも軽減するために秋冬にできることを考えています。
天候としては、5月下旬から6月10日までが低温でその後は比較的天候良く推移したとのことで、やや遅れ気味ですが順調です。
カメムシは昨年多かったものの、今年はあまり目に付かないとのことでした。ただ、周辺で無人ヘリ防除が稲作、枝豆ともに増えており、JAS有機認証の確認のために、境界付近の防除時に立ち会う必要があり、その回数が増えているといいます。
加茂有機米生産組合のふたりとは、とろとろ層の作り方、機械除草の内容やタイミングについて具体的な意見交換をしていました。

 

●野口吉男さん(山形県鶴岡市)
image 除草剤1回のひとめぼれやJAS有機米を栽培する野口吉男さん、毎年、同じほ場を見せていただいています。庄内協同ファームでもいつも参考にされている田で、美しく揃った田んぼはまさに見事としか言いようがありません。田植えは例年通り5月15日、今年はその後低温が続きそれが影響して穂揃いは例年よりすこし遅い8月7日頃とのことです。また、庄内でも、新潟と同様に台風5号による風やフェーン現象の影響も少々あったとのこと。今年はすこしだけ稲刈りが遅めになると予想しています。
この地域は、今年も、8月1日から月末まで畦の草刈りなどを自主的に取りやめるようにしています。カメムシが田に移るのを防ぐためで、もう何年も続けられています。
周辺地域の動向として、やはり無人ヘリ防除が増えており、今後区画整備事業が進むと、さらに大規模化してヘリ防除が増えるのではと懸念されます。野口さんのほ場も、現在の基本2反から1町~1.5町の大規模化と、現在は用水を遠方から引いていますが、その用水の水路、排水路の整備をする整備事業がいよいよはじまります。

 

image加茂の大竹さんと真剣に

●佐藤和則さん(山形県庄内町)
image JAS有機でコシヒカリ、ササニシキ、イノチの壱を栽培しています。無施肥でコシヒカリを7年ほど栽培してますが、無施肥の田んぼでは生産量が少しずつ減っており、今後の栽培方法、施肥など取組みを考えているとのことです。JAS有機の認証では、周辺が慣行栽培の場合、その別の田の水が入らないよう緩衝地帯が求められます。そこで佐藤さんは数年前に周辺の緩衝を目的にビオトープをつくっています。そこを環境学習の場として、子どもたちなどにも生きものの指導をしたりしています。メダカ、ドジョウ、ザリガニ、タニシ、カワニナなどが豊富です。ただ、ザリガニは、田んぼの畦に穴を開けるため、水の管理が難しくなります。
また、カモ、年を越す白鳥などが集まってきて、稲を痛めるといったこともあります。
近年、無人ヘリ防除のあとにメダカが減ると感じています。
佐藤さんは田植えを5月末から6月頭に行い、6月後半まで除草機を押しています。
除草は機械除草で、除草機を何度か押して草を抑えています。


imageimage

JAS有機の緩衝地帯として、ビオトープ

 

■ライスロッヂ大潟・黒瀬農舎(秋田県大潟村)
ライスロッヂ大潟・黒瀬農舎での産地確認会は、毎年グループの産地確認、意見交換と合わせて行われます。
15人ほどの生産者が集まり、何人かの生産者の田んぼを周りながら、栽培の状況や技術的な意見交換を行っています。
今年の大潟村は、5月末から6月初旬、急な低温が続きました。有機栽培の生産者は全体に気温が上がる5月後半、田植えした苗が生長しやすいように、やや遅めに田植えをすることが多いのですが、この低温で、5月25日以降に田植えをした田んぼは初期の成長がずいぶんと遅れました。一方、5月20日までに田植えをした田んぼでは最初の数日、苗がしっかりと育つ時間がとれたため、初期の遅れをあまり感じなくて済みました。その後、全般に天候が回復し、稲もすくすくと育ち、いまでは生育が1週間前後遅れているぐらいで、全般には平年並みのきれいな田んぼが広がっています。
2017年8月30日(水)、橋本明子共同代表、清水淳一さん(ネットワーク草の根)、飯島定幸さん(ネットワーク農縁)、横田正稔さん・大竹直人さん(加茂有機米生産組合)と事務局の牧下圭貴で6世帯7カ所のほ場の確認会を行いました。

●黒瀬正さん、友基さん
image imageJAS有機栽培のあきたこまちと、減農薬栽培(除草剤1回)のもち米キヌノハダを栽培しています。ライスロッヂ大潟・黒瀬農舎の有機肥料はグループでいくつかの種類をまとめて希望をとり、冬の間に準備します。このほか、それぞれに、米ぬか、くず大豆、稲わらなどをそれぞれの考え方で入れたり、入れなかったりしています。共通する栽培方法はありませんが、購入する肥料などは品質や内容を検討し、JAS有機認証をとっても使えるものなど、グループとしてまとめています。それによる生産費用面での削減は貴重です。
栽培方法は、人それぞれに違います。自分の田んぼの状況、生産者としてのこだわり、好み、ライフスタイル、考え方、あるいは哲学が栽培方法にも反映されます。もちろん、それだけではなく、種子の温湯消毒、プール育苗、ばか苗病を防ぐために菌がいるもみ殻の管理など、他地区や大潟村で経験して汎用性がある有機農業技術は積極的に取り入れています。
黒瀬さんが2年ほどかけて取り組んで来たのが、ホウキ除草の広域改良版です(右写真)。竹ぼうきを使って田んぼの表面の土をひっかき、水を濁らせるのと、草の芽をかきだす効果があります。チェーン除草にも近い考え方です。ただ、ホウキ除草は軽いので誰でも作業がしやすいという特徴もあります。大潟村の田んぼは1枚が広いので、できるだけ幅広く、水を入れてあっても歩きやすく、引っ張りやすく、と考え、ポリタンクで浮きをつくり、固い樹脂製の棒を並べて横に伸ばし、5メートル以上を一度に掻いていくことができます。
黒瀬さんの無農薬栽培田は今年は天候に泣かされました。数年前から、アイガモを使った除草・抑草に取組み、成功していましたが、今年は、稲の育ちとアイガモの育ちのバランスが悪くなりました。田植えは6月1日に終えましたが、その頃の低温で6月中旬まで稲が育たず、カモを入れるタイミングが難しくなりました。カモを入れずにまとめて小屋に入れていたら、カモが集団化し、カモを入れた6月15日から7月13日頃までの間、期待通りの働きをしてくれなかったのです。
その分だけ、機械除草、手取り除草をすることになりますが、8月後半には雨も降って、田がぬかるみ、思い通りに草取りができないということになりました。
稲は、6月後半以降持ち直し、十分に実っています。秋の天候次第ですが、平年作になりそうです。カモのことは、異常気象に対しての今後の課題となりました。
カメムシ対策としては、畦の草を徹底して刈り続けるという方策をとっています。他の生産者も同様に畦の草刈りには力を入れています。

●桑原秀夫さん、康成さん
image 無施肥の自然栽培ササニシキは最長10年目となりました。無農薬栽培のあきたこまちは元肥をいれての栽培になります。無施肥の田の苗床となる土も、田の土と稲わらを一夏中切り返している徹底ぶりです。苗は、すべてプール育苗で、今年は春先に低温だったため苗はすこし小さめだったそうです。桑原さんによると、湖底土でできた大潟村の田んぼはそもそも肥沃であること、ササニシキは肥料が少ないと根を伸ばして健康な稲になり、逆に肥料が多いと倒れやすくなる特徴があり、無施肥に向いていることから、大潟村での無施肥のササニシキは向いていると言います。ただ、3年目まではヒエが多く、その後広葉雑草が増えて、最終的にはマツバエが安定して多くなるようです。昨年は8.5俵と豊作でしたが例年は7俵ぐらいとのことです。ただ、他の生産者に聞くと、年中田んぼに入って、土作りや田んぼ作り、草取りに手をかけていて、そこまでやれるかと聞かれれば、できないとのことで、決して放任栽培ではなく、むしろ細やかな作業があってできていることだと実感します。草取りは乗用の機械除草と歩行型の機械除草で合計6回ほどと手取りのみです。
今年から田んぼの手伝いに入った康成さんは今は作業を日々学んでいるところです。(写真真ん中は筆者)

●鈴木隆二さん、隆司さん
image あきたこまちを無農薬のJAS有機栽培と除草剤1回の減農薬栽培しています。鈴木さんは、ここ数年、作業小屋近くに苗作り専用のプール育苗ハウスを立てています。今年は早めにビニールをとり、露地育苗にしました。その方が根の張りがよいそうです。また、ばか苗病対策として、使用する資材のうち籾殻は完全に焼き、温湯消毒後は外気に触れないよう気をつけています。鈴木さんは、暗きょを毎年計画的に入れ、田んぼをできるだけ乾かせるようにすること、機械除草と手取り除草、畦畔は機械除草だけでなく畦畔の雑草を焼いてカメムシなどの侵入を防ぐなど徹底しています。今年は、8月後半になって雨でぬかるみやすく、田が乾かないためひえぬきに入れないのが困るとのことです。これは、他の生産者もみな困っていました。
ところで、たとえば、鈴木さんの栽培計画をみると田んぼの耕起・代かきについて「水を少なくして、泥水の排水を抑制し、藁くずなどごみを表面に浮き上がらないように注意して作業する」とあります。上流部の植林活動など、大潟村に流れる八郎潟残存湖の水質改善には、農薬を減らしたり、肥料分減らして富栄養化を防ぐだけでなく、このようなひとつひとつの作業でできることをするというのも含まれます。

●山本竜平さん
image 田植えの線がまっすぐ、畦の草刈りは美しく仕上がる。山本竜平さんと、先代となる平男さんの田んぼは、いつみてもぴっちりしています。あきたこまちを無農薬栽培、減農薬栽培(除草剤1回)しています。いつも稲を遅めに植えていますが、黒瀬さんと同様、5月28日~30日にかけて植えた苗は6月上旬までの低温で育たず、初期の除草に入れない状態が6月20日頃まで続きました。そこから歩行式の機械除草を3回、その後、黒瀬友基さんたちが開発したホウキ型の除草機で予防的に草の発芽を抑える作業をし、最後に手取り除草を2回繰り返しています。このホウキ型の除草機は、田の表面をひっかく形で土を攪拌していくので、種の発芽を抑えたり、発芽したばかりの草をひっかき出すという効果が期待されています。

 

 

 

●高野健吉さん
image JAS有機認証をとってあきたこまちや大豆を作り続けている最年長の高野さん(85歳)。毎日車で田んぼを見回り、人に頼んで実際の作業はやってもらっています。
5月20日に田植えをした田んぼは、昨年は元肥だけで10俵近く収穫しています。大豆との輪作体系を確立し、無施肥や元肥だけで栽培するなど、先駆的な取組みを続けています。

 

 

 




●花塚昭さん
image 今回、短い時間でしたが花塚さんの田んぼも見に行きました。新しい品種を栽培しているということで、その作柄にみんな関心があります。多収穫系の品種であり、比較的栽培しやすく、食味もいいということで、今年の収穫が待たれます。

 

 

 

 

 

image(全員で記念撮影)

■山本開拓農場(秋田県三種町) 
imageimage 土橋敏郎さん、敏拓さんは、秋田県三種町の高台に田んぼ、畑があります。借りたり、引き受けした田んぼや畑もあって、これらは町内各地にあります。米は、あきたこまち、キヨニシキ、淡雪こまち、ゆめおばこ、もち米のキヌノハダをつくっています。無農薬は紙マルチ栽培、それに除草剤1回の減農薬栽培です。畑作は、大豆、小豆、黒大豆、緑大豆、じゃがいも、人参なども栽培。こちらも無農薬の有機栽培です。やや山寄りの土地柄、気候の変化には敏感で、異常気象の影響は海側の平野よりも受けやすくなりまimageす。今年は4月の中旬にかけて雨が多く、春先の田が柔らかくて畦がつけにくいなど作業も大変でした。5月末から6月頭の低温の影響を受け、田植えをぎりぎりまで遅らせるなど苦労しました。その後、7月には天候も回復して豊作型の天候になり、台風5号のフェーン現象で急に暑くなりましたが、その後は8月にかけて晴れて乾燥していましたが低温傾向が続きました。
稲は全体に田植えの時期や品種によって数日遅れから1週間以上の遅れの品種もあり、晩稲(おくて)のキヨニシキはまだ花が咲いている穂もありました。 
しかし、天候不順ながらも、いもち病などの病気もなく、カメムシも目立たず、少し遅れたのを除くと、順調にすすんでいます。例年、たくさんの昆虫をみることができる里山の田んぼですが、今年は昆虫類は全体に少なめ。これは天候が影響しているようです。
近年、シカ、サル、アナグマなどによる農業被害が周辺でもみられるようになり、また、クマの目撃情報が相次いだり、イノシシがはじめてみられるようになるなど、野生動物の侵入が起きています。これまでも、キツネ、タヌキ、テン、イタチ、ウサギなどさまざまな動物が近くに住んでいます。
畑作の方は、全国的な傾向ですが、種まきなど雨が降るべきときに降らないといった、これまでの経験が役に立たない状況があります。それでも、豆類や人参など秋に向けて元気に育っています。
土橋さんの田は、田植えの株数を品種、田の状況ごとに細かく調整しています。基本的には45~65株植えの間で、モンガレ病対策としては風通しが良いように株数を減らしていきますが、分けつ数が少ない品種や田の状況で株数を増やします。農薬を使わず、病気を抑える工夫です。また、種もみの種子消毒は昨年から全量食酢を希釈して行っています。温湯消毒よりも安定しているとのことで、ばかなえ病などの対策に有効だといいます。
このほかにも、元肥の有機肥料の量を増やし、追肥の回数や量を減らすなど、健康な稲作りと作業性を考えた対策をとっています。
収穫した稲の保管、調整、精米施設も、今年、新たに拡張して、より品質の向上を図っています。

■確認会を終えて
産地確認会は、1999年夏に試行、2000年より産地を生産者、消費者とともに訪問してお互いに確認をとってきました。この間、冷夏、猛暑、台風による塩害等の被害、豊作の年など、1年として同じ年はなく、また、イネミズゾウムシの多発、カメムシ被害、これまでに見られなかった雑草の登場などもありました。
また、一般的な栽培方法の中では、水田除草剤の変遷、空中散布の有人ヘリから無人ヘリへの移り変わり、ネオニコチノイド系の浸透性殺虫剤の普及とカメムシ対策の重点化などがありました。減反政策も、新食糧法以降、いくつかの変化の中で、大豆やそばなどの栽培、加工米、新規用途米(飼料、米粉、エネルギー向け等)なども登場しています。
有機農業においても、JAS有機、有機農業推進法などの法制度等で起きた広がりの勢いは、リーマンショック以降の経済環境の変化、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故ののちに、その勢いに陰りが見えています。
一方、生産者の多くは後継者ができたり、厳しい中でも、自立的な経営を続けており、栽培技術は確実に向上しています。
とくに苗作りの面では、温湯消毒などの手法、プール育苗の手法の確立がありました。また、とろとろ層づくりや、機械除草の工夫など、初期の田んぼの抑草・除草手法も多様化し、より具体的になっています。無施肥・自然栽培についても、経験知が増えています。
そして、汎用的な技術論よりも、それぞれの技術を持ち寄り、それを生産者、田んぼ固有の条件に合わせて応用していくことが当たり前に語られるようになりました。以前は、「この方法で除草は確実」などいう情報と、それに対して、「うちではうまくいかないからあれはウソだ」といった形で情報共有と応用ができませんでしたが、有機農業では個別の技術が大切で、お互いの工夫の情報は役に立つということがようやく常識になった成果だと思います。
今年も、若い生産者が、他の産地を見て、そこでの意見交換を参考に帰っていきました。「百聞は一見にしかず」産地確認会は、生産者にとっても消費者にとっても、現実を知り、お互いを学び、新しい知恵を得るための貴重な場となっていると感じています。