提携米栽培出荷基準・商標権運用要綱

提携米栽培出荷基準・提携米商標権運用要綱


提携米栽培出荷基準

はじめに

「提携米運動」は、米の生産と消費・流通について自主的・自立的に決定するという、市民としての本来的な権利と責任を確立する運動として1987年にスタートしました。
そして今日まで、地球的規模の環境保全という視点から食糧生産を考えつつ、日本の主食である米の安定確保や自給と、安全性の問題とをどう両立させるべきか、という課題を生産者と消費者の直接提携によって追求してきました。
化学物質や機械を無自覚に駆使して自然を征服するような「効率農業」ではなく、可能な限り自然と共存していくことを共通の目標として、各地の自然条件に適した栽培方法と安定的な米の生産・流通・消費のあり方を確立しようとしてきました。
このような理念と実践とによって、日本の稲作を将来にわたって継続させ、主食である米の国内自給を図ろうとしてきたのが私たちの提携米運動です。
この「栽培出荷基準」とそこから導き出される「表示基準」は、付加価値をつけるための画一的なものではなく、提携米運動に参加する生産者が、環境保全型の自立した稲作経営を行なうための指針です。


Ⅰ 生産の基本理念

提携米は、単に「付加価値」の高い米の生産をめざしているのではありません。
この運動に参加しようとする生産者は、次の5点の基本的な生産姿勢を理解して実践することが必要です。

1、主食である米の国内自給が可能な生産基盤をつくろうとする旺盛な意志と意欲がある。
2、可能な限り自然と共存しながら、安全な食糧の安定的な生産を継続させる技術を追求する。
3、経済的に自立し、主体性のある経営姿勢を身につけるように努力する。
4、常に科学的な探求心を欠かさず、経営や技術について創意工夫に努める。
5、自分の営農範囲だけの安全性や環境保全だけでなく、地域や国際的規模での環境問題に常に関心を持ち、社会性ある営農活動を行なう。


Ⅱ 病虫害防除などの指針
提携米は、原則として農薬などの化学物質を使わないで、安定した食糧供給をめざすことを目的とします。なお特に次のような栽培は提携米の生産姿勢として一切容認できません。

ア、倒伏防止など生育を促進または抑制するための化学物質を使った栽培。
イ、ヘリコプターや地上一斉防除によって農薬散布するなどの栽培。
ウ、田の耕起前や米の収穫後に除草剤や病虫害農薬を散布した栽培。
エ、防除基準や防除計画に従って農薬散布するなど化学物質を利用することに問題意識のない生産姿勢での栽培。
オ、省力や増収などを目的として、通常の栽培方法以上に除草剤や病虫害農薬などの化学物質を使用した直播や不耕起などの新技術による栽培。
1、次のように病害虫などに侵されない栽培方法を工夫してください。
(1) 多肥や密植栽培など、無理な多収穫をねらった栽培をしない。
(2) 地域の自然条件に適した品種や栽培時期を選んだ栽培を行なう。
(3) 植物生理や土壌肥料などの栽培に必要な知識を修得し、科学的姿勢で栽培する。しかし、微生物や有機の作用など科学的に解明できないメカニズムもあるので、栽培にあたっては作物の十分な観察など健康なイネ作りに努める。
(4) 畦の草刈りなど環境整備に努め、病害虫の侵入や発生を防止する。
(5) 除草剤を使わないで雑草発生を抑えることに努める。
① 深水管理など、雑草の発生を抑制する管理を工夫する。
② それぞれの栽培規模や土壌条件にあった除草機を開発・利用する。
③ 翌年の雑草の発生を防止するため雑草の種子や根茎などの排除に努める。
④ 2度代かきや、反復耕起あるいは雑草発生周期と栽培時期の工夫などそれぞれの土地に適した雑草を防ぐ方法を工夫し活用する。

2.化学物質に代わる防除方法の開発や活用に努める。
(1) 天然有機酸、各種土壌微生物、天然酢酸、除虫菊の粉末など環境汚染や残留の少ない資材の使用方法を工夫する。
(2) アイガモ・マガモ・コイ・フナの飼育活用、紙マルチなど、農薬に代わる防除方法や栽培技術の研究や工夫を行なう。

3.収穫が半減するような著しい被害や、人手不足で栽培が継続できない場合など、やむを得ず病害虫農薬や除草剤を使用する場合には、次のように必要最低限度に留めてください。
(1) 病害虫の生態をよく観察して、農薬の全面散布を避けスポット(部分)使用するなどで農薬の使用量の節減に努める。
(2) 水田除草剤などを使わざるを得ない場合は、薬剤の使用をできるだけ減らして効果的な雑草防除を行なうように、水管理や散布方法を工夫する。
(3) 農薬を使わざるを得ない場合、次の点に留意する。
① 「残留性」の少ない薬剤を選ぶ。
② 「遺伝毒性」などの恐れの少ない薬剤を選ぶ。
③ 環境への影響の少ない薬剤を選び、あわせて、散布後落水や漏水によって使用した田んぼ以外への影響の出ないように留意する。

Ⅲ 肥料などの使用の指針

提携米は、原則として化学肥料の使用を避けて、有機質肥料を利用した栽培をめざします。

1.厩肥や収穫後の稲わらなど、できるだけ地域で生産されるものを原料とした有機質肥料の活用に努めてください。

2.使用する有機質肥料の特性や土壌環境を判断して、米の味を悪くするなどの品質低下や病害虫の発生を招かないように注意してください。

3.有機質肥料は天候や土壌環境あるいは、使用する有機質肥料の違いによって肥効に大きな差異があります。従って、化学肥料から有機質肥料に切り替える場合には、最初は本肥部分を有機質肥料にするなど、栽培方法の修得に従って全面有機質肥料へ転換させるなど土壌に応じた工夫をしてください。

4.有機質肥料であっても、土壌や環境などを汚染する有害な物質が混入している場合もあります。有機質肥料の導入にあたってはその素材の経歴を十分調べるなど、次の諸点に留意してください。
(1) 堆厩肥や有機質肥料を使う場合は、多量に農薬や薬品が使われた原料を避ける。
(2) 市販の有機質肥料には、化学肥料を混入させたものや原料素材の表示に偽りがあっても確認が困難なので、信頼のおける販売店や製造業者の有機質肥料を選ぶ。
(3) 下水の汚泥などを原料とした有機質肥料は重金属など有害物質が混入している恐れが高いので使用しない。
(4) 産業廃棄物を原料とした有機質肥料にも重金属や抗生物質などの混入の恐れがあるので、素材の経歴を調べる。

5.肥料の散布後数日間は落水を行なわないなど、肥料が流亡して河川など環境を汚染しないように留意し、また堆厩肥の多用は、地下水や河川への流亡など環境を汚染するとともに、米にも病害虫を多発させたり、味など品質低下を起こすので適切な使用に努めてください。

Ⅳ 栽培方法の検証と表示の指針

提携米商標を使って出荷する生産者は、栽培方法の信頼性を確保することをめざします。
栽培方法の検証にあたっては、提携する消費者が希望すればいつでも栽培の現場で栽培の状況を確認できる権利を持ち、生産者はそれに応える義務と責任があることを原則とします。

1.生産者は毎年の播種前に「栽培計画書」を、収穫後すみやかに「栽培管理記録書」を別記様式に準じて作成して、提携米研究会運営会議に提出します。

2.提携米研究会は、生産者と消費者による「栽培検討会」を開催して「栽培計画書」「栽培管理記録書」をチェック検討します。「栽培検討会」は、参加するすべての生産者・消費者に公開されます。

3.栽培期間中のチェックは、地域の生産者ごとに相互の研修を兼ねて、実際に田んぼを見ながら行ない、必要に応じて「栽培検討会」を開き、その過程を確認します。これらのチェックは参加するすべての生産者や消費者に公開されます。

4.出荷に際しての「表示」は、必ず「栽培管理記録書」にもとづいたものとします。

5.「栽培計画書」「栽培管理記録書」は、すべての生産者に記入を求めます。

6.提携米研究会では、必要に応じて提携米の残留農薬等の分析を第三者機関で行ないます。分析に必要なサンプルは必要に応じて抽出し、分析に要する費用は抽出した当該提携米の生産者とします。

2008年4月18日 改訂


提携米商標権運用要綱


1、食管統制と提携米運動の発足

日本の米は、主食として地域の環境を守りながら私たちの暮らしとともにあります。
しかし1980年代に入って、米の輸入を自由化する動きが高まってきました。
これに対して、生産者、消費者の間で輸入自由化反対の運動が活発化してきました。
これらを受けて提携米研究会の前身「提携米ネットワーク」は、減反政策反対、農薬や化学肥料をできるだけ使わない米づくり、そして生産者と消費者の直接提携によって「日本の農業・日本の水田を守る」提携米運動を1987年秋に発足させました。
食管制度という流通統制を乗り越えて米を受渡しする提携米運動の展開は、生産者や消費者の基本的な権利を理由もなく剥奪してきた食管制度を世に告発する端緒を開くことになりました。
また、この提携米運動によって、生産者による米の直接販売が拡大して食管統制の崩壊につながることに衝撃を受けた食糧庁は特別栽培米制度を発足させて生産者の直販を官僚統制の中に組み入れようと躍起になりました。
しかし、このような目的で作られた「特栽米制度」は市民にほとんど定着せず、逆に「提携米」やこの提携米を突破口としたいわゆる「お米の産直方式」が年々増えるようになりました。
その後、ミニマムアクセスの受入れが加わって、食管法は1995年に崩壊を余儀なくされ、新しい食糧法のもとで、米の受渡しは提携米運動での私たちの主張通り自由化されることになりました。


2、提携米商標権運用要綱導入の目的

1995年の食管法崩壊までの半世紀を超える長期間の統制は、米の品質や表示、あるいは商品の選択制やサービスなど流通上の不合理を随所に発生させ消費者に不満や不便を与えただけでなく、生産現場に対しても、米という商品を供給する者として最低必要な自立性や経営者としての社会的責任を生産者に自覚させる機会を奪うという弊害を生みました。
この弊害は、食管統制による保護に安住する生産者だけでなく、食管統制を乗り越えて「産直方式」に向かった生産者までも蝕み、米以外の商品を供給する一般の産業従事者ならば当然身に付けている職業意識の醸成が置き去りになりました。
このために例えば、「生産者直送」と称しながら一般流通市場から原料米を無差別に調達して産直する生産者が現れたり、あるいは「特別に栽培した米」と表示宣伝しながらカントリーエレベーターなどアメリカの家畜飼料のために開発された大量処理方式の施設で、地域の米を十把ひとからげに混合した原料米を使用して産直する生産者団体の出現。さらに、1994年の米パニック時には「産直米」生産者が消費者の弱みにつけ込んで便乗値上げを繰り返す事例など目を覆うばかりの状況を生みました。
そして、食管法崩壊後においては、統制解除の反動や、米の供給過剰傾向が加わって、誇大な広告宣伝や消費者を惑わせる巧妙な販売テクニックを駆使する者が現れるなど米の産直市場は、ますます悪化混乱の度を増しています。

また一方では、消費者の有機農産物を求める動きの高まりに合わせた有機農産物ビジネスの増大や、欧米の有機農産物輸出要求に応えるための「農産物特別表示ガイドライン」や「特定JAS規格」新設などの有機農産物制度が強化されてきました。
提携米ネットワークでは、「これらの権力的な動きは、日本の環境風土に根ざした有機農産物の生産に早くから努力してきた生産者の自立を妨げ、また、消費者にとっても画一形式的な基準や規制では安心できる有機農産物を確保できないばかりか、農産物の輸入拡大に繋がるだけである」として反対の意思表明をしてきました。
さらに、1997年からは大豆などの遺伝子組み換え食品の流通が始まり、この数年の間に日本人の主食である米にも遺伝子組み換え技術が導入される見込みです。
遺伝子組み換え技術の農業への利用は、種の壁を超えて作られた新しいタンパク質の摂取による健康や子孫への悪影響が懸念されるだけでなく、生態系の破壊や、企業の利益追求手段として乱用されることになって、人類の食料生産基盤を破壊知る危険を持っています。

このような状況の中で、安心できる米の選択基準を明確にして消費者の不安を解消するとともに、安全性や味、あるいは安定供給を追求する自立的な生産者の活動を促進して、提携米運動が目指す「日本の農業・日本の水田を守る」目標を達成するための具体策がぜひ必要になってきました。
このため、商標登録制度による「提携米」商標権(平成8年3月29日・第3131689号)を活用して、生産者と消費者それぞれが、行政権力に頼ることなく、市民としての自己責任の自覚を持った上で、一般の「産直米」の中で「提携米」が明確に識別できるシステムを確立する目的で、この運用要綱を制定することにしたものです。


3、「提携米」商標の使用対象者

「提携米」の商標を使用できる人は、次の各号に該当する人(個人生産者・法人生産者・生産者の任意なグループなどを含む)であって、提携米商標権使用契約を締結した人に限定します。

(1)提携米運動の、次のような生産の基本理念に賛同し、栽培基準を遵守する人。
ア、主食である米の国内自給が可能な生産基盤を作ろうとする意志や意欲が旺盛で、減反政策に反対するなど自立的な経営姿勢を貫いている人。
イ、単なる「差別化による高付加価値」を求めるのではなく、可能な限り自然と共存しながら、農薬や化学肥料にできるだけ頼らない安全な食糧の安定的な生産を継続させる技術を追求するなどの生産姿勢を持っている人。
ウ、補助金に頼った経営を行なうのではなく、経済的にも自立した主体性のある経営姿勢がある人。
エ、自分の営農範囲だけでなく、地域や国際規模での環境問題などにも常に関心を持ち、社会性のある営農活動を行なっている人。

(2)遺伝子組み換え作物の導入を拒絶するなど、常に真摯な科学的探求心を欠かさず、経営や技術について創意工夫に努めている人。

(3)カントリーエレベーターや広域的なライスセンターなどの処理施設や、不特定な生産者・米市場から無差別に買い集めた原料米を使わず、生産者、圃場、栽培方法が特定できる米を原料に使う人。

(4)希望する提携消費者からの、圃場や生産施設などの公開要求に応えるとともに、提携消費者が具体的な栽培来歴などを容易に特定確認できる生産体制を備えている人。

(5)提携消費者からの問い合わせなどに的確に対応でき、苦情、クレームには、返品返金や交換など、生産者責任を自覚した誠意ある姿勢で臨める人。

(6)年間計画供給契約を結んだ場合、その後の市場動向などに影響なく量や価格などの面でも安定供給するなど提携関係の維持向上に努力できる人。

4、商標の使用契約方法

(1)「提携米」の商標使用を希望する人は、提携米研究会運営会議に所定の書式による「商標権使用申込書」を提出するものとします。

(2)提携米研究会運営会議は、商標権の使用要件を満たしているかどうかの可否を審査するため、栽培や経営内容が明らかになる資料の提出を求め、必要に応じて現地調査を行ない、これらを基に審査の上、商標権使用契約書を締結します。


5、会費

(1)商標権の使用料は次の基準によって、提携米の商標を使用した米の年間販売量(玄米換算量)に応じた会費を提携米研究会に納めます。
ア、年間の販売量が玄米換算で10トンまでの場合は10万円。(これを基本額と呼ぶ)
イ、10トンを超えて20トンまでは、アに加算して、1kgあたり10円を乗じた額。(これらを加算額と呼ぶ。以下同じ)
ウ、20トンを超えるものは、アとイに加算して、1kgあたり3円を乗じた額。

(2)商標権を使用する人は、上項の基準により算出した額を次により支払っていただきます。
ア、基本額の10万円は、毎年産の出荷に先立つ前日まで。
イ、加算額は、当該年度産の出荷が終了した日から30日以内。
ウ、年の途中で商標権の使用契約の解除があった場合、その時点までの加算額を算出して得た額を支払っていただきます。また、すでに支払いのあった使用料の返還は行なわないものとします。


6、商標の使用契約期間と契約内容の確認

(1)商標の使用契約期間は1年として、契約期間満了時に双方異議がない場合はさらに1年間延長します。(以降これに準じます)

(2)商標の使用契約内容や利用対象要件の適合の可否、並びに商標の使用料金の算出根拠を確認するため、使用者は提携米研究会の要求する資料の提供や、立入り調査などに応じていただきます。

(3)前項により知り得た情報については、関係者は秘匿義務を負い、商標の確保目的以外への使用はいかなる場合も禁じます。
秘匿義務違反によって、使用者に損害が発生した場合は、提携米研究会と漏えい者が連帯してその損害を補填します。

(4)商標権使用者が契約に違反した場合は、ただちに契約を解除して、その日以降の「提携米」商標の使用を禁じます。
また、それまでの商標権使用者は、契約違反によって、商標の信頼性が損なわれた損失や慰謝料として、提携米研究会が決定した金額の支払い義務を負います。

7、商標の無断使用対策

 商標が無断で使用された場合は、使用禁止の警告を発し、無断使用により生じた損害や、無断使用に対する慰謝料、及び無断使用者が得た無断使用による利益などを提携米研究会が請求します。


8、提携米運動の拡大と商標の確立方策

 提携米研究会は、会費をもって、商標使用生産者と共同して、提携米運動の拡大や提携米の信頼性の向上を図るとともに、提携米商標の使用生産者の自立促進などのために、次の活動を行ないます。

(1)商標の社会的信頼確立のための「提携米商標」の広報宣伝活動。

(2)提携米の生産者と消費者の間での紛争や意見対立などの調整、調停や、提携米研究会への提携消費者からの直接の問い合わせやクレームがあった場合の迅速適切な処理。

(3)農業生産者の自立や、安心できる食糧確保などの日本の農業を守るために必要な活動や、農業・食糧政策や商業活動などの監視告発活動。

(4)行政、農業団体、地域などから減反の強制や、減反拒否への攻撃があった場合の支援対策など提携米生産者の自立促進対策の実施。

(5)栽培・保管・精米・出荷・販売などについての学習会や技術交流会の開催および情報の提供。

(6)環境、農薬や遺伝子組み換えなど食の安全性、自給問題など食糧生産者にとって必要な基礎知識の指導講習会の開催や情報の提供。

(7)提携米商標の無断使用防止対策や、その他提携米商標の確立のために必要な活動。


9、その他

この要綱は、提携米研究会が必要であると認めた場合は改訂することがあります。ただし、すでに1年間の商標使用契約が締結済みの使用者に対しては、その契約の満了日までは、改訂の効力は及ばないものとします。

(付記)

1.この要綱は1997年7月17日から施行します。
2.この要項は2008年4月18日に改定しました。


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