提携米研究会2016年産地確認会

東北日本海側の稲は天気に恵まれたのかな?

2016年9月3日から7日まで、提携米研究会の産地確認会を行いました。毎年1回、稲の栽培期間中に生産者と消費者が一緒に田んぼを見ながら、その年の作付計画、栽培状況や周辺の環境、農業や食をめぐる動き、お互いの意見交換を行い、提携米研究会として生産者も消費者も納得できるお米を通したつきあいをするための恒例行事です。一般的には、JAS有機農産物や特別栽培農産物のように、専門の機関や検査員が申請に基づき検査を行い、栽培方法などが基準に合っているかどうかを判断する「第三者認証」が行われています。これは、信頼と公正を保つ上で必要なしくみです。提携米研究会の生産者にも、第三者認証を受けている方や認証されたほ場(田畑)があります。それはそれとして、生産者と消費者の直接交流とお互いが信頼関係で長くつきあっていく上では、直接顔を合わせて意見交換し、栽培技術や消費、食味などのことについても話し合い、相互に理解しながらすすめていくことも大切だと考えています。そこで、有機農業の「第三者認証」が社会的に検討された1990年代に、提携米研究会は「二者認証」も必要だと提起し、「提携米」という商標をとり、商標を使う生産者は二者認証に参加するという仕組みを20年近く続けています。二者認証ですから、提携米研究会の事務局だけでなく、提携米研究会に参加する消費者団体、消費者、生産者、関連する人たちも参加して行います。例年は8月の末頃を中心に行っていますが、今年は1週間ほど遅めの時期に行いました。(訪問は、加茂有機米生産組合、庄内協同ファーム、ライスロッヂ大潟・黒瀬農舎、山本開拓農場です。また、しらたかノラの会の10周年行事にも参加しましたのでおまけのレポート)

レポート:提携米研究会事務局 牧下圭貴

■加茂有機米生産組合(新潟県加茂市)

2016年9月3日(土)、提携米研究会共同代表の橋本明子さん、遺伝子組み換え食品いらないキャンペーンの小野南海子さん、全国学校給食を考える会の荒木規子さん、事務局の牧下で訪問しました。

加茂有機米生産組合では、石附健一さん、横田正稔さん、大竹直人さん、浅川和夫さんと田んぼを回りました。

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例年より1週間ほど遅く訪問したので、地域の田んぼは黄金に色づき、稲刈りもはじまっていました。加茂有機米生産組合は、「従来コシ」や「伝統コシ」と呼ばれるBLコシヒカリ以前のコシヒカリを栽培しています。このほか、酒米の五百万石や、もち米のこがねもちなども栽培しています。

そのBLコシヒカリは、種子の更新を行ったこと、あるいは、今年の天候や施肥状況によることか、新幹線の車窓から見る田んぼは、みごとに倒伏していました。雨が降る以前から倒れていたそうで、稲丈が高く、かつ登熟はやや遅れていて、倒れてもまだ枯れないといった状況にあるようです。

従来コシは、例年よりやや早めの登熟で、例年9月15日頃から刈り取りをはじめるのに対し、9月10日頃からは刈り取れるとみています。

今年、有機ほ場では、メイチュウやイナゴはやや多く、カメムシは目立たないとか。イネミズゾウムシは近年、田植え頃の気温が高くなったこともあってか出なくなったようです。また、今年は早い時期からアカトンボが多く飛んでいるそうで、訪問した日にもアカトンボの姿をよく見かけました。

草も今年は出やすく、畦草の出が2週間ほど早かったことから、田植え前に畦の草刈りが必要なほどでした。これまで、冬の雪があり、春先に草が生えそろうようなことはありませんでしたが、今年は春先から草が多く、草刈り回数も1、2回多く刈ったとのことでした。

地域全体としては、気温は高めに推移し、夜温はやや低めで、稲にとっては好条件でした。ただ、春先の風の向きがいつもと逆の東風で、その影響で田んぼの水の流れが変わり、稲が傷むことはあったようです。

横田さん、大竹さんが中心となって栽培している田んぼは、コシヒカリの無施肥栽培の有機、紙マルチの有機、初期除草剤を1回のみ使う特別栽培(減農薬)などです。

無施肥の田んぼは、4年、5年目となりました。生産量は昨年で6俵弱程度、草の管理が良ければ7俵程度となっています。収量は、コナギ、オモダカ、ホタルイといった田んぼの雑草の管理、抑草がうまくいくかどうかで決まるといった感じをだそうです。

kamo4kamo1無施肥の田んぼ、チェーン除草機2016版

無農薬栽培の紙マルチ栽培では、初期の除草作業をしなくてすむ代わりに、一般的にヒエが多く出る傾向にあります。通常の無農薬栽培では、初期の草を抑えるために、チェーン除草機を何度も引いているそうです。チェーン除草機は横田さんが手作りしており、年々、使い勝手や効果の高いチェーン除草機を開発しています。今年見せていただいたのは、横の棒を塩ビ管にして軽くし、チェーン部分に、チェーンを伸ばすためのプラヒモを短くリボンのように結びつけることで、縦の動きに横の動きを少し加え、より軽く、かつ、効果的に引けるように工夫されていました。チェーン除草は、田植え後3日から1週間以内に1回目を引きますが、1反で早いと15分ぐらいのスピードだとか。

このほか、光合成細菌を田んぼに流し込み、還元状態になりがちな田んぼの土を酸化状態にすることでヒエを抑える効果を狙っています。還元状態はコナギが増え、酸化状態はヒエが増えることから、そのバランスを考えるとのこと。

従来の草に加え、クサネムノキや、根茎で増える草などが増え、放っておくとコンバインにも影響があることから、これらの草の対策が課題です。抜いていくしかありません。

 

kamo2田んぼの標識(上は栽培方法等)

浅川和夫さんは、無農薬の紙マルチ栽培が19年目になりました。例年通りヒエは多いですが、収量は7.5俵くらいと例年安定しています。浅川さんは夏場は果樹栽培の作業があることから、このまま紙マルチ栽培を続けていくとのことです。ただ、名前の分からない根で増える草が増えており、茎が固くなると栽培に影響することからこれを抜く作業が増えています。

今年の状況としては、稲も穂が8月3、4日には出そろい、1週間ほど早くなっています。果樹も1週間は早くなっており、生育もよかったとのこと。

果樹については、冬に暖かいと根が動き水を吸ってしまい、その後の寒気で芽が枯れるようなこともあるため、冬の暖かさは困るようです。

紙マルチの資材の紙は少しずつ値段が上がっているのは、米の価格が上がらないことから悩みどころです。

そのほかの話題としては、地域内に飼料米のための集荷倉庫が建設されつつありました。多額の補助金が国から出ることから、全国でこのような動きがあるようです。ちなみに、加茂市周辺では食用米の販売先がそれぞれあることから、飼料米の栽培はほとんどなく、他の周辺地域の飼料米用ではないかと考えられます。

今年は1週間訪問が遅かったのですが、まだまだ30度を超える暑さの中で、秋を感じるさわやかな風景でした。

■庄内協同ファーム(山形県庄内地方)

2016年9月5日、庄内協同ファームで提携米研究会の個人会員3人の田んぼを回りました。今回は、ネットワーク農縁の消費者側世話人の飯島定幸さんがネットワーク農縁(山形県新庄)の代表・高橋保廣さんら3人の生産者とともに参加、生産者同士の交流もできました。提携米研究会からは、橋本さん、小野さん、牧下です。

syonai1小野寺紀允さん。実証展示ほ場の看板とともに

小野寺紀允さんは、庄内協同ファーム代表の小野寺喜作さんの長男で、農家民宿「母家」・レストラン「菜ぁ」の経営と米生産を担当しています(鶴岡市)。もうひとつの主力の枝豆は弟の貴紀さんが担当しています。

小野寺さんの米は、すべてJAS有機認証です。品種は、ひとめぼれ、コシヒカリ、つや姫、もち米のでわのもちです。栽培方法は、紙マルチと機械除草が中心です。昨年まではアイガモ除草をやっていましたが、カラス、トンビ、動物(キツネ等)による被害が大きいため、電柵を張る、テグスを張るなどの手間がかかるようになり、それでも被害が止らないことから、今年は中止しました。

代わりに、とろとろ層をつくり抑草するための米ぬかぼかしを導入。熊本で行われている米ぬかと竹粉によるぼかし抑草技術を参考に、だだちゃ豆の豆がらを1年かけ堆肥化したものと、米ぬかを材料にぼかしをつくり、荒代かき後、散布し、代かきして田植えをします。それにより、田をわかせて発芽を抑えています。今年は、状況を検証するためにやや遅めに乗用除草機で3回作業したとのことです。そのため、機械除草としては遅れ、ほ場では、コナギが多く、ヒエは少なめとのこと。しかし、米ぬかぼかし除草と初期機械除草の組み合わせの効果には期待できそうだとのことです。ぼかしの種類は発酵・分解のバランスなどに今後工夫をしていくそうです。

アイガモ農法のときは、イネミズゾウムシの心配がありませんでしたが、今年はイネミズゾウムシの被害が少々でていました。食用廃油を点滴して抑制したとのことです。

紙マルチは、田植機を共同で利用しており、田植えには通常の3倍ほどの時間がかかります。レストラン等の仕事と農作業の作業バランスを考えると、できれば紙マルチを増やしたいとも思いますが、作業性なども考えると現状が限界かとのこと。

今年の気候は、雨が適度に降り、天候は平年並みで、全体には気温が高め。種まきは元々遅めですが、さらに5日ほど遅らせたそうです。田植えも5月20日から25日です。ゴールデンウィーク前後は、レストランが忙しいことが第一の理由ですが、近年気温が高いことから、遅めでも生育には問題ないようです。

ひとめぼれは例年より早く、9月15日頃からの刈り取りを予定しています。その後、もち米のでわのもち、コシヒカリ、つや姫の順になります。

作付体系としては、枝豆があることから、枝豆と米の田畑転換を状況を見ながら行っています。豆の後の田んぼは無施肥でも十分に生育がよいとのことです。

周辺の防除については、無人ヘリ防除が増えていて、飛散防止のために立ち会うことが多くなり、地域のヘリ防除の増加が懸念されます。

ネットワーク農縁の生産者とは紙マルチを中心に話が盛り上がっていました。


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次に向かったのは、野口吉男さん(鶴岡市羽黒町)の田んぼです。庄内協同ファームの中で標準的な稲姿を作り続けています。除草剤1回で、毎年まったくヒエなどもなく、きれいに田面が揃っています。今年は出穂後はくもりがちですが、8月になると晴れが続き、夜温は低く、好条件でした。田植えは5月15日で例年通り。穂揃いは、8月6日頃で2日ぐらい遅め。収穫はやや早めですが近年と同じ9月15日頃からを予定しています。

カメムシ対策として例年8月1日から26日までは地域全体で草刈りをしないようにしています。数年以上経ちますが、「一定の効果は感じられる」とのこと。

無人航空防除については、地域の中ではあまり増えておらず、それは高齢でも自分でやっている人が多いからではないかとのことです。

イナゴは普通にいますが、カメムシは平地ではほとんどいないようでした。

syonai3syonai5佐藤さんのビオトープ

最後に佐藤和則さん(庄内町余目)のほ場に行きました。栽培品種は、コシヒカリ、ササニシキといのちの壱が中心です。今年は田植えの時期に機械除草機が2台一度に盗難されたため、初期除草が遅れました。新たに機械を導入し、自分で改造をしてから田んぼに入り3から4回は入りましたが、結果的にコナギ、オモダカとヒエが多くなりました。いのちの壱は、元肥なしで追肥のみ、背が高く、収穫は10月半ば過ぎになりそうです。

無施肥のササニシキ、コシヒカリは5年以上になりました。生育は安定していますが、今年はホタルイが多めです。

無施肥の田んぼでは、JAS有機の緩衝帯をつくる目的で畦と田の一部をけずりビオトープにしています。今は、メダカ、ドジョウ、ハヤ、ザリガニ、ガムシ、フナ、コイ、タニシ、カワニナなどがいます。ふくしま庄内浜ツアーでの生きもの調査や地域の子どもの環境学習の場ともなっています。子どもたちが大好きな場所です。この田んぼは、白鳥とカモのねぐら兼えさ場となってしまい、田んぼに穴を開けるなどの被害もあります。

この地域でも、夏場は1カ月畦の草刈りを共同で中止し、カメムシ対策をしていますが、一方で、周辺では、無人ヘリ防除が増えており、そのせいなのか、全体にイナゴをはじめ、ホタルの姿も減り、影響があるのではないかと考えられます。

 

■ライスロッヂ大潟・黒瀬農舎(秋田県大潟村)

2016年9月6日、台風だった低気圧が通り過ぎる影響で、時折雨や強い風が吹いている中、生産者10数名とともに4人の生産者の田んぼを回りました。消費者側は、橋本さん、小野さん、清水さん、牧下です。

秋田県大潟村は、今年は全般に天候が良く、気温は高めでしたが、例年になく雨が少なめで、いつもは乾燥に苦労する大潟村の田んぼの土が乾きやすくなってしまいました。大潟村の主力はあきたこまちですが、どこも稲のそろいが良く、病虫害もみられない、稲にとっては上々の天候となっています。天候のせいなのか、イナゴの姿はほとんど見られず、カメムシやドロオイムシなどの昆虫類も例年になく少なかったとのこと。いもち、もんがれなどの病気もほとんど出ていません。

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最初の田んぼは、高野健吉さんのJAS有機田んぼです。84歳でグループ最長老の高野さんは、農作業をするのはむつかしいですが、手伝ってくれる人に指示をしながら、あきたこまち、ササニシキ、大豆などを栽培しています。ササニシキは肥料をまったく入れない無施肥栽培を続けており、高野さんによると、養分は八郎潟の水だけで十分足りているとのことです。肥料を入れなくても、ササニシキの稲の姿は大きく、昨年は10俵とれたとのことで、他の生産者の驚きをかっていました。

あきたこまちは、背丈は例年より低めですが、茎数、穂の実のつきかたなどは充実していて、昨年の10俵と同じくらいはとれそうな勢いです。

除草は、大豆くずを入れて田んぼをわかし抑草するのと機械除草を繰り返すことで抑えており、最後のひえぬきの人手はいつもより少なく済んだとのこと。

あきたこまち、ササニシキとも、田んぼの姿は美しく、高野さんもうれしそうです。

稲刈りは、平年並みであきたこまちが10月上旬、ササニシキが10月10日頃からを予定しています。


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次の田んぼは、昨年に続き桜木義忠さんの田んぼです。大潟村は、入植地であり、最初に割り当てられた面積はみな15ヘクタールです。同じように干拓された土地でも、場所により砂地で水はけが良かったり、水はけが悪い土地があります。そのこともあり、おおむね2カ所に田んぼが配分されています。昨年も訪れた桜木さんの田んぼは、砂地で水はけが良く、他の田んぼよりも早く稲刈りができます。今年も5月21日に田植えをして、9月25日には稲刈りに入れそうだとのこと。桜木さんは、無農薬栽培と、除草剤1回の減農薬栽培を続けており、収量は9俵弱で、無理に多収穫を求めず、安定して栽培するように心がけています。無農薬栽培の除草は、機械除草3回と人手によるひえぬきです。

桜木さんは、田んぼの面積を増やしています。種まき後の育苗は、薬剤などを使わず、健康な苗を育てるため、プール育苗をしていますが、そのためのハウスを新たに準備中でした。すべての面積をプール育苗で行い、なおかつ、薬剤を使わない育苗のため、万一を考え予備の苗を育てますので、その量は膨大です。田んぼの近くに育苗場を用意し、種まきを作業小屋で行うため、もう一棟、隣に作業小屋も建てました。昨年の秋から冬になる前の1カ月半、桜木さんひとりで立ち上げたそうです。

ライスロッヂ大潟・黒瀬農舎の生産者は、栽培関係の技術の共有に関心が高く、栽培技術、資材だけでなく、機械の改造などもそれぞれの生産者が自分で行っていますが、作業小屋の作り方についても、桜木さんを囲んで意見交換が白熱。耐久性、使い勝手、作業手法など幅広く話が広がります。このあたりも、産地確認会の醍醐味です。

生産者同士の会話では、気温が高くなっていると有機肥料の効果が早く切れることから、追肥をしない桜木さんとしては、有機肥料の種類などを考えているとのことです。

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鈴木隆二さんの田んぼは、2012年以来4年ぶりに訪問しました。今年から、後継者として鈴木隆司さんが田んぼの作業に参加しています。鈴木さんも、桜木さん同様に機械いじりや改造、自作をていねいにしています。鈴木さんの作業小屋には、常に工具がきちんと並べられており、几帳面さをうかがえます。昭和46年導入のフォード製大型トラクターは管理がしっかりしてあり、いまも立派な現役です。エンジンをかけていただきましたが、1発できれいにかかり、今は草刈りを中心に活躍しています。

田んぼは、JAS有機のあきたこまちと、除草剤1回の減農薬栽培です。鈴木さんの田んぼの特徴は、暗きょの多さ。毎年、収穫した米のもみがらをすべて使って暗きょ排水を増やします。暗きょは、田んぼにもみがらを埋めて田んぼの畦の両端にフタ(栓)をつけ、水が必要な時は閉じておき、水を切るときには、栓を開けてもみがらを通して水が抜けるようにします。大潟村の田んぼはどこも基本的に水切れが悪く、収穫期にコンバインが入りにくく、作業性も悪いことから、排水など水管理が難しい土地です。もみがらを使った暗きょは、5、6年で効果が薄れてくるため鈴木さんは暗きょを増やしていますが、今年は雨が少ないことから、栓を閉めています。

除草は田植え後1カ月程度のうちに除草機を3回手押しで入り、あとはひえぬきです。田んぼの畦の草は生育が早く、6回ぐらいは草刈りを繰り返したとのことです。昨年の収量は8俵強で、これまでも9俵にはなったことがないそうですが、今年はもしかすると収量が多くなるかも知れません。

午後、一雨後だったせいか、田んぼにはツバメがたくさん集まって、飛び立った羽虫を食べていました。大潟村は干拓後半世紀になり、生態系が複雑になり、生物多様性が高まりました。この20年でも野鳥が増えていることを実感します。

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最後は、黒瀬正さん、友基さんの田んぼです。除草剤1回の減農薬栽培でキヌノハダ(もち米)、無農薬のあきたこまちで、無農薬栽培は、アイガモ除草を導入して4年目になります。5月29日から31日の間に田植えし、6月6日にアイガモを入れて7月10日まで入れていました。アイガモとは別に、手押し除草機の開発のために、何度も田んぼに入っています。手押し除草機は、チェーン除草や竹ホウキ除草のアイディアを元に、エンジンをつけたり、エンジンをはずして軽くしてポリタンクをつかって田面に浮かせ、軽く押せるように工夫するなどして徐々に完成させ、来年には本格的に活用するとのことです。これらの除草は、田植え後すぐにヒエやコナギなどの種が発芽するタイミングで土をかきまぜ、芽を浮かせたり、土をにごらせて生育をおさえることを目的にしています。

黒瀬さんによると、アイガモはこれまでの除草技術のどれよりも効果が高いですが、動物なので毎日朝夕の見回り、管理、逃げたときの捕獲などが大変であり、それに代わる除草技術の開発も続けるそうです。

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左、機械談義中 中、田んぼの中まで確認中 右、長年立っている看板。
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確認会参加者一同

■山本開拓農場(秋田県三種町)

2016年9月7日、今回の確認会の最後は、秋田県三種町の山本開拓農場、土橋敏郎さん、敏拓さんの田んぼです。橋本さん、小野さん、清水さん、牧下で訪問しました。

「異常気象」や「これまでこんな気象はなかった」という昨今ですが、今年は、例年になく夏暑く、雨が少ない年となりました。土橋さんは、あきたこまち、キヨニシキ、あわゆきこまち、ゆめおばこ、きぬのはだ(もち米)を栽培し、大豆、黒豆、小豆や、ジャガイモ、人参などの野菜類も栽培しています。土橋さんの田んぼは、規模を拡張し周辺にありますが、一番近いのは家の裏の田畑です。高台で地下水や井戸を堀り、冷たい水を使って栽培しています。栽培は、紙マルチによる無農薬栽培と除草剤1回の減農薬栽培です。無農薬栽培はひえぬきをしていますが、今年は少なめだとのこと。他の産地同様に、きれいな田面が広がり、病虫害も少なく、美しい田んぼの風景となっています。

今年は、種まきの時に食酢を使って殺菌効果を試しました。結果としては、田植えの最後の方には一部ばかなえ病が出ましたが、おおむね順調に苗作りがいったとのことです。

また、今年は暑く、雨が少なかったこともあり、追肥をせず、資材も減らして肥料が過剰にならないよう注意して育てています。それもあり、健康な稲ができています。稲の背丈は他の産地ほどではないですがやや低めで、雨が少なく、晴天で気温が高めだったために大きく伸びず、早くに稲穂がついたためだろうと考えています。

他の地域ではあまり見られなかったイナゴが飛んでいるのを見ることができました。ただ昆虫類は総じて例年とは違う傾向があり、いつもはもっと早いコブノメイガやアゲハチョウが今になって増えてくるなどが目に付くそうです。花が終わった時期だとこれらの昆虫は食性が季節と合わないために生きられなくなります。

高台でほぼ独立した土橋さんの田んぼでは、アカガエル、キジ、カラス、カモ、スズメなどが田んぼとその周辺で暮らしていますが、カラスは稲穂を穂首のところでつまみ、畦に置いて粒を食べます。スズメや穂先を食べ、カモは稲穂をしごきだして食べるそうです。

畦の草はなんども刈り取りされており、山の棚田にあるような様々な野草が自生して美しいあぜ道となっていました。また、暗きょ排水の排水路を田んぼの周囲に堀り、それを小さなビオトープにもしていました。カエルなどが水の切れた田んぼの避難所として使っているのを見つけ、「里山の生物多様性」の豊かさを感じた次第です。

大豆や小豆なども順調で、このまま刈り取りまでおだやかな気候が続くのを願うばかりです。

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土橋さんのビオトープと、地下からくみ上げた冷たい水


■しらたかノラの会10周年行事

2016年9月3日、4日、山形県白鷹町のしらたかノラの会が10周年を迎え、記念行事が開催されました。会場となったパレス松風には70人以上の人が全国から集まり、パネルディスカッション「食と農と地域の未来~自給と循環を紡ぐ」が行われ、二本松有機農業研究会(福島県)の大内督さん、置賜自給圏推進機構の佐藤由美子さん(米沢で生活クラブ生協の理事長、元学校給食調理員)、NPO法人APLA/あぷらの野川未央さん、しらたかノラの会の大内文雄さんが、それぞれの取組み、自給と循環について語りました。

このほか、農業と自然エネルギーの循環のあり方の報告などもあり、提携米研究会からは牧下が、農政、飼料米政策、TPP、遺伝子組み換え、食品表示、食育と地場産学校給食などについて短く話をさせていただきました。

懇親会では、これまでのしらたかノラの会の歩みが報告され、参加者が所属別に壇上で一言ずつ挨拶。その中では、亡くなった加藤秀一さんとの思い出や、加藤さんの取組み、思いが数多く語られ、その存在の大きさを感じる機会ともなりました。

提携米研究会関係では、庄内協同ファームの小野寺喜作さん、菅原孝明さん、大地を守る会の野田克己さん、やまゆり生協の加藤慎吾さんの姿もありました。

翌日は、加藤美恵さんの案内で、秀一さんの墓参をしています。提携米関係者であらかじめ話をしていたのですが、当日になると、ゆかりのある多くの人たちが参加しての墓参となりました。

しらたかノラの会が、人の縁を広げ、新しい農業の自立や自給、循環のあり方に、自らの生産や取組みを通して具体化していくのだと思います。

元気をお互いに分け与える集会でした。

最後に行われた、山形県長井市を中心に活動するフォークソンググループ影法師のミニコンサートは、市民の方々も集まり、農家や地域の暮らし、思いがこもった歌を聞くことができました。影法師は2011年「花は咲けども」のリリースで知られるグループで、youtubeなどで、いろんなミュージシャンが「花は咲けども」を歌っています。

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(まとめ)

東北日本海側は、総じて暑い夏ながらも、猛暑日は少なく、雨は少なめですが干ばつというほどではない、稲にとっては最高の状態で推移したようです。

全般に稲の丈は低めですが、健康そうで、葉も明るく、稲穂も充実していて、素人目には収量も味も期待できると思っています。ただ、例年、最後まで気が抜けない状況です。このまま台風などの被害がないことを願っています。

確認会の前後、台風が何度も東北太平洋側から北海道を襲いました。また、春の熊本地震などもあり、全国で農業被害も大きくあります。

「年が明けると、毎年、今年も何かあるのではないかと不安になる」というぐらい、異常気象、気象の変化が激しく、先が読めない年が続くようになりました。

何が原因であれ、気候変動が起きていることは間違いなく、その影響は年々大きくなります。それは、自然界の植物、動物、菌類の世界に確実に変化をもたらしつつあり、農業や食の様々な分野にも影響してきます。米の栽培方法、肥料の入れ方、草や水の管理など、これまでの技術や常識が通用しなくなる中で、これまでと変わらないように農業を続けることはとても難しいことですが、それに取り組む生産者は、前向きに未来を見ています。

農政や国際政治などを見れば、家族経営の小規模農業を壊し、自立経営を否定するような勢いですが、それぞれの土地で、土地の状況に応じて工夫する農業は、経済性だけでなく、生き方としての選択でなければ続けることは難しい生業です。自立する農家と、その生き方や栽培、作物を求める消費者とのつながり、提携の必要性が高まっています。

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