平成20年(2008年)5月28日、生物多様性基本法が成立、6月6日に公布、施行された。民主党が衆議院に提出していた法案をもとに、衆議院環境委員会で法案がつくられ、衆参とも全会一致で成立した。
生物多様性を、人類存続の基盤、地域における固有の財産として地域独自の文化の多様性を支えるものと位置づけている。「今こそ、生物の多様性を確保するための施策を包括的に推進し、生物の多様性への影響を回避し又は最小としつつ、その恵沢を将来にわたり享受できる持続可能な社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出さなければならない。
ここに、生物の多様性の保全及び持続可能な利用についての基本原則を明らかにしてその方向性を示し、関連する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する」(前文)とした基本法である。
この法律は、生物多様性、持続可能な社会づくり、地球温暖化防止等の視点が盛り込まれている画期的な基本法である。
特徴として、
・開発行為に対する環境アセスメントのみならず、生物多様性保全のために予防的な取り組み方法や事業等の着手後の生物多様性状況監視等について求めていること。
・現在の生物多様性国家戦略(第三次)に基本計画としての法的位置づけを与えるとともに、都道府県、市町村に生物多様性地域戦略策定の努力義務を与えたこと。
・第16条で、外来生物だけでなく、遺伝子組み換え生物等についても生態系に係る被害防止の面での規制等措置を求めている。さらに、生態系に被害を及ぼすおそれのある化学物質の製造規制についても求めている。
・第19条で生物の多様性に配慮した原材料の利用、エコツーリズム、有機農業その他の事業活動への推進策を位置づけるとともに、国民に対し、これらの物品又は役務の選択を求め、そのための普及啓発を国に求めている。
環境省は、第三次の生物多様性国家戦略をとりまとめており、農水省も農水省の生物多様性国家戦略を持っている。また、自然再生法や有機農業推進法などの関連法も整備されつつあり、satoyama イニシアティブのような新たな施策も提案されている。
政府・立法府は地球温暖化対策と生物多様性対策を重要な施策として位置づけているが、今後地方自治体や国民、事業者にもこれらが求められることになる。
法律でも触れているが、有機農業をはじめとする環境に配慮し、持続可能な社会づくり、生物多様性を育む農業や漁業、産業は、消費者の支持と支援なしには成立しない産業でもある。有機農業をはじめとした生物多様性、持続可能な産業に対する支援のみならず、それらを支える消費者への支援と誘導も必要であろう。
我田引水になるが、平成20年度からのかつてなく強化された米の減反政策は、生産者や地域による生産調整や転作の意志を超えた強制色をもっている。水田のネットワークは分断され、本来生物多様性や持続的な社会づくりに欠かせないエリアで、生物多様性を維持してきた水田が生産者の意志、地域の意志を排して畑や耕作放棄地に変わっている。
生物多様性基本法の理念に基づき、このような地域の特徴や水田の機能を無視した政策を中止すべきである。
もう一点、遺伝子組み換え生物と化学物質規制について触れておきたい。
日本では、遺伝子組み換え作物の商業栽培は行われていない。試験ほ場などはあるが、幸いにも生産者の自主的な判断で行われていない。これは、生物多様性を守る農業生産者の意志と良心によるものである。しかし、日本は最大の遺伝子組み換え食品輸入国であり、水揚げされたナタネの種が陸送中にこぼれて自生していることがつきとめられている。生態系への影響が懸念される。世界では、遺伝子組み換え作物の面積が増大し、日本でも遺伝子組み換え食品のやむを得ない輸入が増えているが、本法の趣旨にのっとり、国際的にも生態系に影響をおよぼす遺伝子組み換え作物の拡大を規制する取り組みが必要である。
化学物質についても同様である。工業生産物としての化学物質は、その製造のみならず、使用面でも規制が必要である。日本は、農薬の単位面積あたりの使用量があいかわらず世界第一位であると推定されている。農薬は生態系に直結した化学物質使用形態であり、この総量規制が生物多様性確保の上で真剣に議論されるべきである。
本基本法に基づいた、生物多様性と持続可能、循環型の社会づくりに向けた行政が推進されることを願ってやまない。