米国産牛肉輸入再開とBSE問題 山浦康明 日本消費者連盟
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米国産牛肉輸入再開とBSE問題
山浦康明 日本消費者連盟
□ 米国のBSE発生と日本への輸出再開問題
2005年7月26日、日本消費者連盟も含む市民団体が、東京の憲政記念館講堂に約200名の参加者を得て「大丈夫?
アメリカ産牛肉の輸入」と題する日米公開討論会を行った。発言者は、在日米国大使館のクレイ・ハミルトン主席農務官、
食品安全委員会の金子清俊プリオン専門調査会座長代理(東京医科大学教授)、鳥取県畜産農協の鎌谷一也組合長(畜産農家)、
日消連副代表運営委員の山浦康明(明治大学兼任講師)で、コーディネーターは食の安全・監視市民委員会の三宅征子さんが務めた。
米国のBSE(牛海綿状脳症)対策について、日本側と米国側で次のような討議がかわされた。
(1)日本側は米国の2頭目のBSE牛につき、その感染経路、同居牛の範囲とその処理結果など、詳細なデータを求めた。米国側は、 2005年6月10日の米国農務省(USDA)発表以上のデータしか示さず「できるだけ早く追加情報を提供する」と述べるにとどまった。 日本の食品安全委員会の米国政府への照会や各種情報をもとにするとこの2頭目のBSEをめぐっては次のような状況である。 2004年6月のBSE1次検査(エライザ法)で擬陽性となったものの、その後の確認検査(IHC・免疫組織化学的検査) で陰性とされた3頭の牛について、消費者団体の指摘を受け米国政府内の農務省監査局(OIG)が再調査を要請したため、 USDAが2005年6月にウエスタンブロット法(WB)で再検査したところ、この3頭のうち1頭が陽性と確認された。 この2頭目のBSE牛はテキサス州生まれで約12才、同じ群れで飼育されていた67頭はBSE検査では陰性であった。 しかしどのような飼料を与えてきたのかについては不明であり、厳しい規制前の肉骨粉がその原因であるとすれば、 この牛以外にもBSEの感畜はいるだろうと考えるのが自然である。 こうした情報については米国側は顧客たる日本の消費者に早急に情報提供するほうが信頼を得られるにもかかわらず、 そうした姿勢を見せていない。
(2)次に日本側は「米国のサーベイランス(BSE対策の効果の確認を目的とする抜き取り検査)の方法を全頭検査のスクリーニング
(篩い分けをして陽性牛を市場へ出さない措置)へと転換すべきだ」と米国側に質した。
2頭目のBSEの確認をめぐる混乱した状況からも、検査対象の牛をリスク牛ばかりに限定することは間違っており、
対象牛のサンプリングも公正に行われているのか疑問だからでる。米国のサーベイランスの目的は米国が清浄国であること、
米国のBSE対策に欠陥がないことを証明するものと位置づけられていたが2頭目のBSE感染牛も確認された現在その思惑はもはやはずれた。
また確定検査方法もIHCだけでは不十分であり、WBも併用する必要がある。金子清俊氏も、「日本での若齢牛のBSE診断もふまえて、
英国のような高リスク国モデルではなく、米国・日本・カナダのような低リスク国にふさわしい検査システムを用いるべきだ」、と強調した。
これに対して米国側は、「90年からBSE検査を実施しており、また対象を04年37.5万頭へ拡大した」と釈明したが、
約1億頭の飼養頭数(年3千3百50万頭のと畜頭数)に対してのべ41万頭と、わずかな率の検査を行っているだけである。
そして米国政府はBSE対策はSRMの除去こそが重要だと主張した。
(3)日本側は、「SRM(特定危険部位)の除去も30ヶ月齢以上のみであり、若齢の牛からは除去していない、
牛肉骨粉は牛の飼料へ利用することを禁止するのみで、豚や鶏への給餌が行われており、交差汚染の可能性がある」、
と米国のずさんさを指摘した。
米国側は「OIE(国際獣疫事務局)の国際基準に沿った最善の方法をとっている」と釈明するに留まった。このSRMの除去に関しては、
2004年1月から2005年5月までに1036件の違反事例があったことを米国の市民団体パブリックシティズンの指摘により米国政府は認めた。
SRMの除去の実効性もままならないようでは、米国側の説明は納得力を持ち得ない。
(4)この討議では生産者が、日本でのBSE対策に生産者として取り組んできた苦労をまじえて、 「なぜ米国は全頭検査やトレーサビリティを行わないのか」と米国側に迫った。しかし米国側は「米国のBSE対策は有効に機能している」 として、「BSE対策にはSRMの除去が重要だ」と主張するばかりでした。 当日米国側が配布した新聞広告もOIEの総会結果を歪曲して利用する始末であった。
(5)米国側は建前論を繰り返すのみで、日本向け牛肉・内臓の安全性、vCJD問題を含めBSE対策の実効性の保証はない。 議会で安全規制のルールが立法化されても、改めて政策の実施ルールを決定し、予算措置を確定しなければならず、 実効性が発揮されるまでに数年を要することもある。また飼料規制の点でも1997年から実施されたと米国政府が強調する法規制も、肉骨粉、 血粉を含む餌の袋の表示に「牛など反芻動物肉骨粉が含まれている餌は牛などに与えないように」という表示を明記させるだけであり、 農家がそれを遵守しているかどうかは不明である。 牛の肉骨粉が鶏や豚の餌に含まれておりそれが交差汚染をもたらすおそれがあり肉骨粉を製造し続ける米国の危険性は高いといえる。
(6)日本側は2005年8月2日、 米国のジョハンズ農務長官と在日米国大使館のハミルトン主席農務官に再質問と意見を提出しそれに対する回答書が同年8月22日に送られてきた。 米国側は、「BSE検査はあくまでもハイリスク牛を中心とするサーベイランスでよい。 全頭検査は消費者に誤った安心感を与えるので実施しない。 牛の肉骨粉による交差汚染については適切な清浄プロセスを実行することを事業者に義務付けているので問題ない。日本向けの米国産牛肉・ 内臓製品はA40という格付けと輸出証明プログラムにより保証される。」などと、自分に都合の良い説明と、 制度上の建前を繰り返すのみである。鶏の飼料には牛の肉骨粉、血粉などが使われており、 鶏舎から出される鶏糞や鶏の食べ残した飼料などは牛の餌となるサイクルも考えられ交差汚染の可能性は高い。また検査方法、 肉質判別の作業も政府の監視がいきわたるわけではなく建前どおりに行われる保証はない。
(7)日本の食品安全委員会のプリオン専門調査会では2005年5月24日に政府諮問「現在の米国・
カナダの国内規制及び日本向け輸出プログラムにより管理された米国・カナダから輸入される牛肉及び牛の内臓を食品として摂取する場合と、
わが国でと殺解体して流通している牛肉及び内臓を食品として摂取する場合のBSEに関するリスクの同等性」を受けた。
プリオン専門調査会は5月31日、6月21日、7月14日、8月1日、8月24日、9月12日に会合を開き、答申案をまとめ始めた。
9月12日には「答申案たたき台」を作成し、米国産牛肉の安全性諮問については、厚労省農水省など管理部門が、
米国でのBSE対策の実効性について責任を持つこと、管理措置の可否を問わないことなどを前提として、文章化を開始した。
その後9月26日にも会合を開いたが、委員から慎重を期すようにとのコメントも出され、10月以降の審議に待つことになった。
次回は10月4日に開かれる。
答申書案たたき台の内容は生体牛のリスクと食肉のリスクに分けて検討し、定性的評価を中心とし、定量的評価も用いるというものである。
生体牛のリスクについては生体牛のBSEプリオンの蓄積度を検討した。英国などからの生体牛の輸入実績、肉骨粉、
動物性油脂の輸入実績に関して米国と日本の比較をおこなっている。
食肉のリスクについては食肉のBSE汚染度を検討する。すなわちと畜検査、と畜場でのBSE検査、高リスク牛の排除、
スタンニング、ピッシング、SRMの除去、せき随除去・枝肉洗浄後の確認、手順・記録、トレーサビリティなどの項目につき、
米国と日本の状況の比較検討を行っている。
この答申書は、定量的評価を、様々な仮定を前提としておこなったとしても、
米国における牛肉生産の実態をふまえて米国のBSE対策の実効性が確認できなければ、
定性的評価を中心として言葉によって日米間のリスク評価の比較は空虚なものにおわるだろう。
今後日米間の政治日程に合せて食品安全委員会が安易に答申をすることがあれば、
その科学的判断を独立して行うと自認する立場は崩壊することとなる。
□ 食の安全の確保のために
BSE問題は近代的な畜産のあり方と深く結びついている。
すなわち、本来草食の反芻動物である牛に肉骨粉を与え、フィードロットで人工的に肥育し、
また成長ホルモン剤を使用するような効率優先の大量生産の畜産のあり方が、BSE発生の原因の1つであろう。
また米国においてはレンダリング業者が大きな力を発揮し、肉骨粉、血粉を製造し続けており、生産・
流通のあり方が大きくこの問題にかかわっている。
牛肉の安全性の確保のためにはこうした状況そのものを見直す必要がある。
その際には動物の生産には自然の摂理を大きく変えてしまう効率優先の考え方を用いないこと、
動物の福祉という考え方を尊重することが必要である。
また社会的にみても各国の食料自立を尊重することが必要である。日米間での牛肉輸入再開問題についてみれば、
米国の食肉産業の政治的圧力によって、日本市場への牛肉輸出が再開することは日本の畜産のあり方をゆがめ、BSEのリスクを高め、
総じて日本の農業全体に影響を及ぼすことになる。
BSE対策についてみれば、現在の日本が行っている全頭検査、全頭からのSRMの除去、フィードバン、
トレーサビリティなどの厳しいBSE対策は、BSEの拡大防止と封じ込め、BSE研究にとって極めて有効であろう。
こうした対策を国際的に広げていくことこそが求められるのである。
提携米通信24号 2005年10月10日発行