WTO・FTAの問題点
[ 2004年05月09日 レポートに戻る ]
山浦康明
日本消費者連盟 脱WTO草の根キャンペーン
(1)
カンクン会議決裂の状況
9月10日から14日にかけてメキシコのカンクンで開かれたWTOの第5回閣僚会議は、
閣僚会議宣言文の採択ができないまま、閉会した。私も現地へ行き、WTO閣僚会議を傍聴し、WTO事務局の説明会に出席し、
またNGOのイベントにも参加した。
1) 閣僚会議においては、農業における自由化問題は大きな焦点となったが、新分野(投資・競争・貿易円滑化・政府調達透明性)
や途上国配慮の分野などにおいても加盟国間の対立が続いた。10日午後より各国代表のスピーチが最終日にかけて始まった。
閣僚会議の交渉の実態は、5分野(農業、非農産品市場アクセス、新分野、開発、その他)での討議と各国代表間での非公式な折衝、
NGOによる各国代表へのロビイングなどであった。
閣僚会議宣言文の作成過程では、WTO一般理事会カスティーヨ議長の宣言案(閣僚宣言1次案)が7月18日に提示され、8月13日の米国・
EU共同ペーパーが促進作用を果たし、8月24日のカスティーヨ議長の宣言案改訂版(2次案)が提示された。
そしてカンクン会議において9月13日、閣僚会議議長を務めたデルベス・メキシコ外務大臣の宣言案(3次案=デルベス文書)が出された。
しかし会議最終日の9月14日においても各国代表の合意はならず、カンクンにおいては閣僚宣言文は採択できずに決裂した。
2) この状況については、次のように考えられる。農業分野では、
日本がEUその他多面的機能フレンズ諸国と提案してきた各国農業の重要性の視点は事実上退けられ、EU米国など先進国主導で、
農産物の関税引き下げ率、国内保護措置撤廃のレベル、といった議論が先行してきた。
また148のWTO加盟国のうち100カ国以上を占める開発途上国の意見が討議に十分反映されておらず、シンガポール・イッシュウ(新分野:
投資、競争、貿易円滑化、政府調達透明性)の拙速な交渉開始提案に対する反発を買った。途上国はインド、ブラジルを中心にG22(グループ・
オブ・22)を結成し、途上国の立場を最後まで貫いた。さらに9月11日にはアフリカ4カ国(ベニン、ブルキナファソ、マリ、チャド)
が米国に対して「綿花の補助金の撤廃」を要求する声明を提出した。
3) カンクン会議・市民運動には世界の多くのNGOが参加し、閣僚会議の監視活動、各国政府代表へのロビイング、シンポジウム、ティーチイン、
デモンストレーションなどを行った。メキシコや諸外国の団体が実行委員会を作り、シンポジウム、ティーチイン、フェアトレード・
フェアなどのイベントが9月8日から14日まで延べ90以上開かれ、10日の集会・デモンストレーションには約2万人、
13日のデモンストレーションには約1万5千人の市民が参加した。
10日の抗議行動においては韓国の農民団体の前会長が農業の自由化に対して抗議自殺を行い人々に衝撃を与えた。
追悼集会にはベネズエラ政府代表も姿を見せ、11日にはWTO事務局、韓国政府がこの出来事に対して遺憾の意を表明した。
日本政府は具体的な行動はとらなかった。
NGOのWTO交渉に対する立場は様々であるが、共通しているのは、WTOの交渉過程が不透明であり、
とくに途上国の実質的な参画が妨げられていること、経済のグローバル化が各国の人々に多くの困難をもたらしていることを指摘することである。
例えば「先進国の輸出補助金漬けの安い農産物により農民達は被害を被っている」
「各国の食糧主権を認め農業分野はWTO交渉の対象からはずすべきだ」「自由貿易の実態は企業により管理された貿易である。
各国の法律や経済上の国境が取り払われ資本の自由な移動といわゆる自由貿易が実現しつつある。
しかし民主的な管理が行き届かないところで世界貿易が行われるようになれば、生活や健康の基準が切り下げられ世界は危険な状態になる」
といった主張である。各国政府がとらわれる国益の範囲を超えて、世界の貿易ルールのあり方を地球市民という立場から考えることができるのである。
今後、日本がWTO交渉に臨むにあたっては、途上国を含めさらに幅広く各国に働きかける必要があるが、その際にはNGOの主張を尊重し、
以下のようにWTO交渉そのものに対する根本的な改革を盛り込んだものとする必要がある。
・WTO交渉のプロセスを民主的なものに改めること。グリーンルーム会合や非公式閣僚会議に象徴される閉鎖的な決定プロセスを改める必要がある。
・途上国における農地改革の実現に向けた協力を行い、多国籍企業や大地主の支配から農民を解放する方法を提案すること。
・グローバリズムではなくローカリズムを重視し、各国・地域社会の伝統的な農業や食生活を尊重するシステムを支援する必要がある。
・企業による大規模な工業的農業ではなく、分権的農業こそが効率的で生産的であることを認識する必要がある。
(2)カンクン以後の状況
1) カンクン以降、2003年12月15日にはWTO一般理事会が開かれたが、
新ラウンド再開に向けて早期合意を目指す姿勢を確認するにとどまり、新たな進展はなかった。
2004年2月11日の一般理事会で各交渉グループの議長を決め、交渉の進展をはかろうとするが、まだ見通しは立たない。
交渉のベースとしてデルベス文書(閣僚会議宣言文3次案)を用いようと、一般理事会のカスティーヨ議長(04年2月には任期切れ)
から提案があったが、参加者から異論は出なかったものの具体的交渉の段取りは不透明だ。それに加えて04年5月にはEUの拡大、
秋のEUのフィシュラー、ラミー両委員の任期切れ、アメリカ大統領選挙があり、WTO交渉への集中力は弱まる。
この間日本政府は、FTA(地域貿易協定)の拡大の方針を決定し、すでに締結されたシンガポールとのFTAに続けて、チリ、メキシコ、韓国、
ASEANとの交渉やその準備を開始している。この交渉過程において、農産物の関税引き下げ、知的所有権、投資ルール、
サービスなどの交渉分野があり、今後の日本農業に対しても大きな影響を与えることとなる。
2) 国内で03年5月に立ち上げた「脱WTO草の根キャンペーン」はカンクン閣僚会議以後第2期の運動を開始した。04年1月28日には
「必須医薬品問題とWTO・TRIPS協定の過去・現在・未来」と題して、NGO「アフリカ日本協議会」による学習会がもたれた。
カンクン会議直前に妥結したTRIPS協定の内容では途上国のエイズ治療には不十分であり、
アメリカなどの先進国企業による市場独占に都合のよいものであることが指摘された。1月30日には「多くの問題あり!日韓FTA学習会」
と題して、NGO「異議あり!日韓自由貿易協定キャンペーン」が昨年末から開始された日韓政府間交渉を批判した。
すなわち03年に事前に重ねられた日韓FTA共同研究会の報告書(03年10月)に現れているように、閉鎖的な協議の仕方、労働運動への圧力、
食料生産基盤の悪化が懸念される、と指摘された。
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