2004年遺伝子組み換え野外実験、栽培の状況(牧下圭貴)
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■遺伝子組み換えイネ開発の状況
今年も、国内で遺伝子組み換えイネの野外実験が行われます。当初は4品種4カ所で予定されていましたが、
花粉症予防イネの栽培実験が中止されたため、3品種3カ所となりました。
●短幹・
耐倒伏イネ
農水省外郭である独立行政法人農業生物資源研究所が開発したもので、
短幹性のものと直立葉性のものの2品種を実験しています。 いずれも、倒伏防止、多収穫、作業性の向上で新たな「緑の革命」
をねらうものです。
宿主として「どんとこい」を利用し、2004年5月より、茨城県つくば市の農業生物資源研究所内の施設で隔離ほ場栽培試験を行っています。
具体的には、植物ホルモン・ジベレリンを不活化するジベレリン2酸化酵素遺伝子を導入し、短幹性にします。もうひとつは、
植物ホルモンのブラシノライドの受容体の変異型、改変型ブラシノライド受容体遺伝子を導入し、直立葉のイネにしたものです。
農業生物資源研究所 http://www.nias.affrc.go.jp/gmo/rice/
●花粉症予防イネ(実験中止)
独立行政法人農業生物資源研究所が開発したもので、
日本で主に春先のアレルギーとして多くの患者をかかえるスギ花粉症を予防する目的で開発されています。
アレルゲンとなるタンパク質の一部の活性部位(エピトープ)に対応する人工DNAを合成し、
自然界に存在しない7Crpというタンパク質を発現させています。これについて、遺伝子組み換え情報室の河田昌東さんは、
自然界に存在していないタンパク質であり、従来の遺伝子組み換え作物とは違う安全性評価が必要であり、食品としてではなく、
医薬品としての安全性評価が必要と指摘しています。
また、読売新聞インターネット版2003年9月6日付けによると、厚生労働省は、
組み込んだ遺伝子がすでに知られているアレルギー原因物質の遺伝子と同様のものであるならば、食品としては認められないとの立場を示した。
流通段階での混入や栽培時の交配により花粉症ではない人が食べる可能性もあるため、同記事は「『治療効果を持たせるためとはいえ、
あえてアレルギーの原因となる物質を入れている食品が認められるわけがない。国際的な遺伝子組み換え食品の安全基準にも合わない』
と同省新開発食品保健対策室は説明した」と伝えています。
この花粉症予防イネを、こともあろうに全農(全国農業協同組合連合会)が、神奈川県平塚市にある全農営農・
技術センターで隔離ほ場栽培すると発表しました。
説明会では、平塚市や神奈川県の理解や、農協の理解は得ているとしていましたが、周辺市民や農業生産者、
全農と提携している生活クラブ生協などは納得しませんでした。結果的には理解しているはずの神奈川県から口頭で中止を要請され、全中
(全国農業協同組合中央会)からも中止要請があった模様で、5月26日、ホームページ上で
「風評による農業等への影響を懸念する声が強いことなどから、関係機関と協議のうえ中止」と発表しました。
しかし、5月27日に開かれた院内集会(スギ花粉症GMイネに反対する会ほか)で、全農側は、今回の野外実験は中止するものの、
閉鎖系での栽培実験などなんらかの形で栽培や開発実験を続ける意向もうかがわせおり、開発中止ではないので引き続き注意が必要です。
●トリプトファン高蓄積イネ
農水省外郭の独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構作物研究所が開発し、
茨城県つくば市の中央農業総合センターの実験ほ場で隔離ほ場栽培される予定です。2003年にはじめて隔離ほ場実験が行われ、
今年も引き続き行われることになっています。
飼料用作物として、飼料添加物に使われるアミノ酸トリプトファンの含量を高めたもので、「日本晴れ」
に導入されている2系統を栽培する予定です。2004年は、鶏への給餌実験に必要な試験米を生産するのが目的としています。
作物研究所http://nics.naro.affrc.go.jp/
■2004年イネ以外の野外実験の状況
●収量性向上ジャガイモ
農業生物資源研究所が開発した、
トウモロコシ酵素を導入し収量性を向上させたジャガイモを茨城県つくば市の農業環境技術研究所で栽培試験されています。
なお、このジャガイモは西東京市の東京大学大学院ほ場でも栽培実験を予定していましたが、説明会後に周辺生産者が強い反対を行ったため、
同ほ場での栽培実験は延期されました。事実上の本年度中止です。
●モンサント社の除草剤耐性ワタ、大豆
モンサント社が開発し、すでに日本にも流通している除草剤耐性ワタと除草剤耐性大豆が茨城県河内町モンサント社ほ場で、
同じ除草剤耐性大豆がつくば市の農業環境技術研究所のほ場で一般ほ場栽培試験されています。いずれも長期モニタリングという名目です。
●ダウ・ケミカル社の除草剤耐性・殺虫性トウモロコシ
ダウ・ケミカル社が開発し、社団法人農林水産先端技術産業振興センターと共同で、つくば市の
農業環境技術研究所ほ場にて隔離ほ場栽培実験を行います。 チョウ目害虫抵抗性遺伝子と除草剤グルホシネート耐性遺伝子を導入したトウモロコシです。
●デュポン社の除草剤耐性・
殺虫性トウモロコシ
デュポン社が開発したもので、
茨城県牛久市の財団法人日本植物調節剤研究協会研究所で隔離ほ場実験が行われます。
コウチュウ目害虫抵抗性と除草剤グルホシネート耐性を導入したトウモロコシです。
●シンジェンタシード社の殺虫性トウモロコシ
シンジェンタシード社が開発したもので、
茨城県牛久市の財団法人日本植物調節剤研究協会研究所で隔離ほ場実験が行われます。
チョウ目害虫抵抗性とコウチュウ目害虫抵抗性のトウモロコシで、Bt菌の殺虫毒素導入です。
■カルタヘナ法と情報公開
2004年2月に生物多様性条約・カルタヘナ議定書の国内法である
「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」が施行されたことでふたつの大きな変化がありました。
ひとつは、遺伝子組み換え作物について、すべて生物多様性への影響評価が必要になったことです。
生物多様性への影響評価が不足している作物は、すでに流通されているものであっても、あらためて評価が必要になりました。
もうひとつが、農水省が関係する研究機関に対して示した「第一種使用規定承認組換え作物栽培実験指針」です。第一種使用とは、
環境中への防止しない使用で、農業生産などがこれにあたります。これにより、関係する公的研究機関には、事前の説明会や経過説明により、
周辺住民の理解を得ることと、情報公開が求められることになりました。
この「実験指針」は、隔離距離が十分でなく、交雑防止策として不満が残るなど不備があります。しかし、この法律と指針により、
事前の情報公開と周辺住民理解を求められた点は評価できます。
今回、いずれの栽培実験も、このカルタヘナ法の結果として、事前に情報公開され、説明会が開かれたものです。ダウ・
ケミカル社とデュポン社が財団法人日本植物調節剤研究協会で行う隔離ほ場実験については、この「実験指針」に合わせる必要のないものですが、
同財団によると「公益団体として準じて行った」とのことです。
カルタヘナ法と、「実験指針」により、各自治体も独自に「指針」をつくり、また、規制条例をつくるなどの動きも出ています。
■対話への道
この春の作付け期の特徴は、「情報公開と対話の模索」です。
ほとんどすべての説明会で、十分な説明は行われず、「効果と利点と安全性」のみの説明で、リスクや不明点について、
きちんと説明する姿勢はありませんでした。住民への十分な理解を求めるということにはほど遠く、
行わなければならないから形式的に行うという姿勢です。
そのなかで、西東京市の東京大学大学院ほ場で行われる組み換えジャガイモ栽培実験については、4月27日に説明会が開かれ、
十分ではないとして、5月7日に2回目が行われ、さらに、都議会議員有志による「説明を聞く会」が続けて行われるなどの結果、
実験農場長の大杉立教授が、市民の理解を得られないまま実験はできないとして実験の延期を決めました。議論をつくせなければ、延期(中止)
するという姿勢は、今後、研究開発と市民の理解・対話に向けた第一歩だと評価できます。
一方、同じく中止を決めた全農については、説明会を1度行ったままで、「見学はいつでも受け入れる」としたものの、
不十分な説明のままで説明会を終え、不明瞭な形で栽培実験を中止しました。中止の判断を下したことについては高く評価しますが、
生産者組織として、市民、周辺の生産者との対話の姿勢に欠けていることに、不安が残ります。
筆者は、遺伝子組み換え作物を許容するものではありませんが、環境中に放出される生物、化学物質などの研究・開発・産業化にあたっては、
その手順ごとにきちんと市民に対し説明し、必要性とリスクを市民とともに議論し、社会的な合意があった上で、
一歩ずつ進めていくことが必要だと考えています。
不十分なカルタヘナ国内法ではありますが、社会と自然環境に大きな影響を与える科学技術の急速な開発と隣り合わせの現代社会において、
この法律を一歩として、情報公開と対話の道を築き上げていくことが大切です。
■第一種使用申請農作物
カルタヘナ法に基づく、第一種使用の申請が行われているのは以下の12品目です。このうち、最初の3つについては、
すでに申請が通っています。4つ目以降は、今年、隔離ほ場栽培試験が行う、または行う予定だったものです。
・青紫色カーネーション サントリーフラワーズ(株)
・チョウ目殺虫性トウモロコシ 日本モンサント(株)
・コウチュウ目殺虫性トウモロコシ 日本モンサント(株)
・除草剤耐性ワタ 日本モンサント(株)
・チョウ目及びコウチュウ目殺虫抵抗性トウモロコシ 日本モンサント(株)
・直立葉半矮性イネ 農業生物資源研究所
・半矮性イネ 農業生物資源研究所
・スギ花粉症予防イネ 全農
・高トリプトファンイネ 農業・生物系特定産業技術研究機構
・チョウ目殺虫性トウモロコシ シンジェンタ シード(株)
・コウチュウ目殺虫性トウモロコシ シンジェンタ シード(株)
・チョウ目殺虫性及び除草剤耐性トウモロコシ ダウ・ケミカル(株)
■モンサント社、
GM小麦の開発延期
5月、モンサント社が、アメリカとカナダで申請し、2005年からの商業栽培開始を目指していた除草剤耐性小麦について、研究・
開発の延期を明言しました。他社のGM小麦が導入されるまで育種・野外実験を行わないという、事実上の撤退宣言です。
カナダや日本の小麦製粉業界が反対したこと、最大の消費先である日本と韓国の消費者が激しい反対運動を行ったことが、
今回のきっかけとなりました。
3月に、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンなどの代表団6名が、GM小麦反対の団体署名をカナダ政府、アメリカの州政府に提出、
反対キャンペーン活動を行いました。大地を守る会事務局で提携米ネットワークの事務局もになう前川さんも同行したものです。
この署名414団体、構成員で120万人超のインパクトは大きかったようです。
しかし、アメリカ、カナダ政府への申請は取り下げられておらず、申請取り下げと、シンジェンタなど他社の開発中止に向けて、
さらなる運動が必要です。
■シュマイザー裁判、
敗訴
5月、カナダ最高裁判所が、モンサント社とナタネ生産者パーシー・シュマイザーさんの裁判で、
シュマイザーさんの特許権侵害を認める判決をくだしました。裁判官9名が5対4に分かれた僅差の判決でした。
シュマイザーさんのモンサント社への損害賠償については、実質的にモンサント社に被害はなかったとして認められず、
シュマイザーさんはモンサント社に支払う必要はなくなりました。差し押さえられていた農地、家が戻ることになります。
しかし、モンサント社が持つ遺伝子・細胞レベルの特許を認め、事実上、生命特許の商業的使用が認められたことは、世界中の市民・
農民にとって恐るべき脅威です。
モンサント社は、「すべての人によいニュース」と勝利宣言を行っています。