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WTO交渉などをめぐる動き

[ 2001年04月30日 レポートに戻る ]

2001年4月9日山浦康明

 2001年に入りWTO交渉は農業交渉の分野において、各国の提案が出され、 それをめぐり議論が始まっている。日本政府提案については、多面的機能の重視をめぐって、 ヨーロッパ諸国や一部途上国の賛同とケアンズグループや一部途上国の反対がみうけられる。11月のカタールでの閣僚会議に向けて、 7月までに具体的な交渉項目や方式など合意すべき事項をまとめたいとのムーア事務局長の意向は、実現できるかまだ不透明な状況である。
 2000年の輸入野菜による国内農家の被害に対し、政府は今月4月一般セーフガード措置を決めようとしている。しかし、これはネギ、 生シイタケ、イ草の3品目に限定され、また秋までの需要が少ない時期での暫定措置であり、効果のほどは疑わしい。
 中国のWTO加盟問題は、まだその結論を出すに至っていない。
 また、食品の安全性の問題をめぐっては、3月25日から29日にかけて、千葉・幕張において、コーデックス・ バイオテクノロジー食品特別委員会第2回会合が開かれ、安全基準をめぐって議論が行われた。別稿で述べたように、 バイオテクノロジーの安全性問題をめぐって、コーデックス委員会の姿勢はかならずしも消費者の不安を解消するものではなく、 今後とも監視し続ける必要がある。
 こうした状況において、WTO体制をめぐる問題点を改めて整理し、今年の交渉経過を見守っていこう。

■ 貿易自由化論をめぐって
GATT-WTO体制の問題点をみておく必要がある。
 日本が貿易の自由化により貿易立国として離陸できた、との議論があるが、鉱工業製品の輸出ラッシュを支えた背景を考えてみると、 単に関税の引き下げがなされ、各種非関税障壁がなくなったからだ、との議論は一面的である。それは、 工業生産において日本が各国の資源を安く購入し原材料コストを引き下げることができたこと、国内での生産にあっては、 労働賃金を低く押さえる政策がとられ、ここでもコストを引き下げることができたことなどに負っているのであり、 世界のまた国内の多くの人々に多大な犠牲を強いるなかで貿易による利益が生じたということである。そして、 その富の配分は多国籍企業に典型的に見られるように、日本の国民の生活を豊かにするものではなく、企業の利益を増大させるものであった。 そしてこれは、国富の枠を越え、今や一国の貿易収支がその重要性をもたなくなりつつあるのである。
 また、貿易自由化は地球レベルで産業化を進める歴史であったが、その中で資源浪費、エネルギー浪費、産業廃棄物の投棄よる、地球温暖化、 環境破壊など、多くの負の側面が存在することが認められる。南北格差は解消されず、資本進出による発展途上国の悪影響は、 FAOのアジア太平洋地域総会でも各国の報告にあった。
 こうした点は、ネオ自由主義論の「市場経済化万能」の発想のあやまりということができる。それは所得の再分配に関する措置が国内的にも、 国際的にも十分でないこと、環境や人権など非経済的コストを内部化するするシステムがない市場の失敗、 多国籍企業の国際的独占を規制するシステムの不在などである。今やオルタナティブな経済理論の必要性があり、各国の外交政策、 産業政策としても何を優先させるべきか、が今問われているのである。

■ WTO農業交渉日本政府提案(2000年12月) をめぐって
「交渉に際しての基本的重要事項」とのタイトルのもと、本提案の総論部分においては、 2000年に国内の市民団体などからの提案を募りその意見を反映させたこともあって、上記のWTO体制が抱える問題点を指摘した。
 まず、「農産物貿易のルールの見直しが必要として、今回の交渉に際してはGATTウルグアイ・ラウンド(UR)合意の実施状況を充分に検証し、 各国が抱える食料政策・農業政策の困難を解決するように交渉をおこなうべき」とする。「ケアンズグループの中でもアルゼンチン、オーストラリア、 ブラジル、カナダといった食料輸出大国は輸出量を増加させたが、インドネシア、フィリピンなどは輸出額を減少させ、 農産物貿易から受ける恩恵は不公平な結果をもたらした。また、先進国の食料過剰と途上国の食料不足がさらに拡大した、」と述べる。 日本では食料の輸入国がUR合意後もさらに輸入量を増大させ国内自給率を低下させ国内農業も衰退の一途をたどっているのである。また、 「アメリカやカナダにおいては、穀物の過剰により穀物価格が低下し農家は経済的損失を被り、政府が農家救済策を導入している。」
 次に「世界的な農政上の課題としての、農業の多面的機能の追求、食料安全保障の追求が必要」とする。 「農業は貿易の対象たる農産物のみを生産しているわけではなく、市場に反映されない多面的で公益的な価値を生産している。それは大気の浄化、 レクリエーションの場の提供、緑豊かな景観の提供、洪水調節・水資源かん養・土砂崩壊防止、地域社会の維持などである。」

 食料安全保障をめぐっては、「いま、世界では、少数の特定国・地域の主要農産物の輸出に占める割合がますます大きくなってきている。 その一方で開発途上国を中心とした栄養不良問題が長期化、深刻化している、」と分析し、政府の課題として、 「食料の安定供給を確保することは国民に対する国の基本的な責務、」「食料安全保障は開発途上国にとって最優先の課題であり、 世界最大の食料輸入国である我が国の消費者にとっても最大の関心事項の一つ、」「世界の食料需給は輸出国が特定の国・ 地域へ集中しており今後もその度合いは高まる、農業は異常気象の影響を受けやすいことなどから不安定な側面をもち、 需要の増大により今後の世界の食料需給もひっ迫する可能性がある、」 ことから食料の安全保障をを確保の重要性を十分に認識してWTO農業交渉を行うべきと述べる。

 また世界の多様なNGOの提案がなされ、 WTOの改革が迫られている。2000年3月に世界の64カ国454のNGO団体(2000年6月末現在)が合意した「世界NGOキャンペーン」 の「ボストン声明」では「文化の多様性、生物多様性、経済の多様性を保護し、地域経済と地域内貿易を優先させる政策を導入し、 国際的に認知されている経済的権利、文化的権利、社会的権利および労働権を確保し、人々の主権と、 国家および地域レベルにおける民主的意思決定プロセスを取り戻す必要がある。そのためには、資源の民主的管理、生態系の持続性、公正、 および協力という諸原則、そして予防原則に基づく新しいルールが必要なのである、」と述べる。
 これまで農産物の貿易自由化は、 価格低下と選択幅の拡大をもたらす、食料自給努力は食料の価格を押し上げ社会的弱者が入手しにくくさせた、などと楽観的立場をとっていたCI (国際消費者機構)も、2000年11月の第16回世界大会では、GATT-WTO体制への態度を変化させた。貿易の自由化を「持続可能な開発」 「貧困撲滅」「消費者の権利」という観点から再評価する必要がある、としました。現在の消費パターンが資源浪費型であることを認め、 資源の保全と公平な分配を図る必要があること、生物多様性や自然のエコシステムを守る必要性があること、 食料自給について国内消費用の主食の生産を優先させる必要があることを認めている。

「食の自給と安全の全国行動」 を行っている市民運動団体「ふーどアクション21」も日本政府に対しWTO農業交渉に対する意見書を2000年8月29日に提出したが、 その中で政府提案の各論部分については次のように提案している。

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1.「貿易交渉における農産物の扱いについて」は工業製品と同じルール上で扱うことはもっての他です。日本政府が主張するように、 「農業は人が生きるために不可欠な食料を生産する産業であり、また、食料供給を行う以外に自然環境や国土の保全といった役割も果たし」、 人類の生存にとり背中合わせの活動でもあります。WTO交渉においては、農業部門は自由化の論理を強調すべきではありません。 自由化の波にのせることは各国の農業発展を後退させ、その人々の生存の危機を招くことになるからです。
 それと同時に工業製品の自由化の論理も見直す必要があります。 比較生産性優位の考え方からは経済力のある先進国や多国籍企業がその利益を得る傾向がありました。資源の収奪や廃棄物の拡大、 といった地球環境破壊の弊害もみられます。また投資やサービス部門の自由化は南北間の格差を拡大するおそれがあります。

2.「農業の多面的機能を配慮」することには賛成です。ウルグアイラウンドの農業合意においても「非貿易関心事項(non-trade concerns)」が言及されており、日本提案におけるように「国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承、 保健休養、地域社会の維持活性化、食料安全保障」を多面的機能の内容として盛り込むことは当然です。 そしてこの考え方の背景にはすべてのものを商品化し貿易の対象とすることは人類の生存の危機をもたらすことを自覚し、 これを貿易制度一般のルールとすべきではないという理念があることを強調する必要があります。また日本政府としては、 農業の多面的機能維持を主張する以上、国内支持の口実として述べるのではなく農業政策として実質化しているという裏付けが必要です。 緑の政策として位置づけている基盤整備事業などの項目は農業の発展にとって本当に役立っているのかを検証してみる必要があります。 自然環境の保全を主張する以上、日本においても有機農業への転換を進める必要もあります。

3.「食料の安全保障」について日本政府の主張に同意します。すなわち「どんな場合でも国内に食料を安定的に供給することが国の義務であること、 人口の急増等により世界の食料需給が大幅に増加することや砂漠化の進行などにより食料増産にも限界があることを考えれば、 各国が輸入に過度に依存することは問題であり、食料供給は国内生産を増大させることを基本にすべき」です。 フードセキュリティを国際的合意とすることはFAOも認めるところです。これについては、 日本のような経済大国が経済力にものを言わせて発展途上国の農産物を買いあさることはその国の食料自給をさまたげること、 アメリカやケアンズグループなどの多国籍の食料産業の戦略に国民の食生活をまき込むべきではないことなどに留意する必要があります。 輸出国であろうと輸入国であろうと自国民を飢えさせない食料安全保障の権利を認め合う必要があるのです。 その上でセーフティネットを作ることが国際貿易ルールとして必要なものなのです。

4.「多面的機能を有する農業に対する措置について」
 農業に対する支援をすることは、農業の有する多面的機能が市場競争にそぐわない側面があることから、国民の税金でまかなうことに賛成です。 事実上、農産物輸出国も多様な形で農家支援をおこなっていることからみても、輸出と輸入のバランスをとる必要もあります。 しかし農業支援の措置については透明性を確保することが大前提です。公共事業にかかわる汚職はもっての他ですし、 個々の農家支援に役立つ予算措置を考える必要があります。そのためには、「政策評価」の手法も見直し、地域からの要求を吸い上げ、 消費者の意向も加えそれを予算化する手法を考えるべきでしょう。

5.「輸出国と輸入国の権利義務バランスの回復について」は、食料輸入国が輸入の段階的拡大を義務づけられているのに対し、 輸出国の食料供給の義務が明確ではありません。このようなアンバランスの是正が必要です。このことは、 食料の安全保障の上からも当然のことですが、この問題を政治的な妥協の対象としてはなりません。

6.「途上国への特別な配慮について」については、WTOの加盟国の大半が途上国である以上、先進国側の視点からによるものではなく、 各国のNGOなどの意見をもとにした配慮が必要です。その際に、農産物の輸出促進のために、 途上国が有する資源を収奪しない措置が国際的に必要です。特に、多国籍企業による開発輸出に対する規制が必要です。また、 教育や女性の権利の拡大等への国際支援を重視し、開発途上国の経済的自立を促進することが必要です。

7.「食品の安全性など新たな課題への対応について」は、食品の安全性に関しては独立した課題とし、消費者の基本的権利(知る権利、 選択の権利の保障)を盛り込むことが必要です。特に、GMO(遺伝子組み換え体)などバイオテクノロジー食品については、 予防原則に則った国際的協定づくりを進めることが必要です。表示の義務づけを国際ルールとするよう主張すべきです。また、 食品の安全に関する衛生検疫措置については、各国の自主性を尊重し、国民の健康が守られる水準を確保することが必要です。

8.「国内農業助成に対する規律のあり方」については、それぞれの国の助成政策について、国民に対する透明性を確保した上で、 国内農業の縮小につながることのないよう、配慮すべきです。国内助成合計量(AMS)の削減(「黄」の政策)については、各国の食料・ 農業をめぐる事情を配慮し、一律的な削減を行わないよう主張すべきです。特に、輸出を行っていない農産物については、 削減対象からの除外を求めるべきです。また、削減対象としていない「緑」「青」の政策については、引き続き、削減対象外とするとともに、 その政策の範囲は各国の事情によって弾力的な運用を図るよう主張すべきです。さらに、中山間地域等の条件不利地域対策、環境保全型農業への支援、 コメなど国内生産を基本とした基礎的な農産物の経営安定のための制度等は、「緑」「青」の政策として維持するよう主張すべきです。

9.「関税やアクセス約束など国境措置のあり方」では、関税水準については、 国内農業の維持や国民生活に必要な基礎的食料の確保が可能となる水準とするよう主張すべきです。とくに多面的機能と食料安全保障のうえから、 国内生産の維持が重要な作物については、関税引き下げは行わないよう主張すべきです。また、関税水準の上限設定の導入に反対すること、 品目別の関税水準については、一律に一定率の削減をおこなうことなく、各国の自主性を確保するよう主張することが必要です。

10.「輸入急増による国内産業への悪影響を防ぐためのセーフガード措置のあり方」では、輸入量の急増、輸入価格の下落に対し、 関税を課す特別セーフガードを堅持すべきです。また、国内農業の維持が図られるよう、セーフガード措置を積極的に発動すべきです。

11.「輸出競争など輸出国に対する規律のあり方」については、輸出補助金は、最も貿易歪曲的なものであり、その廃止を主張すべきです。また、 現在認められているロールオーバー(輸出補助金未使用分の後年度使用)についても廃止を主張すべきです。さらに、 輸出国の一方的な輸出規制については、制裁措置を明確にするなど、規律を設けるよう主張すべきです。一方、 人道的な立場からの食料援助については、制限を設けないよう主張することや、国際的な食料の安全保障のため、 食料備蓄機構の創設を主張すべきです。

12.「途上国のニーズ・問題に対する配慮のあり方」については、7と同じように主張すべきです。
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 今後もこうした見解を国内外の人々に訴え、WTOの体制を変革していかなければならない。

 


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