FAOアジア太平洋地域会合とFAO-NGO/CSO協議会について
[ 2000年09月01日 レポート ]
2000 9.18 日消連 山浦康明 8月28日から9月1日にかけて、横浜で国連の食料農業機関(FAO)の「第25回アジア太平洋地域総会」が開かれ、
またそれと並行して「FAO-NGO(非政府組織)/CSO(市民社会組織)協議会」が開かれた。後者の会議に参加し、
またFAO地域総会の閣僚会合を傍聴した報告を行う。
(1)
FAOは1996年のローマでの世界食糧サミットにおいて食料安全保障(フードセキュリティ)の重要性を確認し、
世界の8億人あまりの飢餓人口(そのうちアジアでは5億人以上)を2015年までに半減する、という目標を立てた。
今回の会合はそのフォローアップを行い、アジア地域における課題を討議しようとするものであった。
(2) 8月28日から30日にかけて、
FAO会議に参加した諸国の高級事務レベル(Senior Officer)会合が開かれた。27カ国の政府代表と1つの国連機関、
オブザーバーとして10の国際NGOや政府間組織が参加した。一般のNGOはこの会議の傍聴はできなかったため、
この各国次官級の高級事務レベル会合の報告書(8月30日作成、31日閣僚会合に提出)の概要を紹介しよう。
議題としてまず報告書の第2章で、「次のミレニアムにおける持続可能な農業の発展と貧困の緩和(アジア危機からの反映と教訓)」
が取り上げられた。アジアの経済危機に対処するため、雇用や暮らしに関するこの地域でのもっとも重要な部門として、
農業こそが貧困の緩和や食料安全保障の確保において決定的な役割をはたす、と位置づけられた。そして(緑の革命を含む)
過去30年の前例のない発展にもかかわらず、この地域では貧困の緩和が主要な開発の課題だとの認識が示された。
その課題の解決のためには失業労働者の雇用を吸収し、対外貿易の収益を上げ、国内の食料供給を増やし、国内の投資のための資源を生み出すために、
農業は主要な役割を果たす、と認められた。
高級事務レベル会合では以下の事柄を確認し、FAOに勧告することにした。すなわち、人口増加、需要の変化、
グローバリゼーションによる資源の減少と水の枯渇によって、農業の持続的な成長は挑戦を受けていること。この挑戦に対しては発達した科学技術、
適切な農業の実施、しっかりした政策、効果的な制度をもって、立ち向かうことができるのである。具体的には「食料安全保障のための特別計画」
(SPFS)として、総合的な病害虫処理、効果的な水と肥料の使用、総合的な生育栄養システム、収穫前・収穫後の農薬使用技術、
バイオテクノロジーの適切な応用などである。
またこの会合では農業の発展にとって投資の刺激策として、明確な所有権の重要性を挙げ、
FAOが各国に対して明確で実施可能な土地所有権を確立するように支援するよう勧告した。また小農や女性、未熟練者、
条件不利地に住む人々などに、効果的な少額クレジット計画、サービスの拡大、教育支援、
市場出荷への支援などを拡充するようにFAOが支援する必要性がある。
また経済の発展に応じて経済活動における市民部門と公共部門の協同を助長する政治改革の実行を要求する。公共部門は市場の失敗に焦点をあて、
支援サービスの競争と質を確保し、環境と公共の資源を保護し、バランスのとれた地域の発展を促すことができるのである。
農業の多面的機能については、賛成と反対の強固な意見が様々な代表者から述べられたものの、
この用語の意味とFAOの内部でのさらなる作業についてはまだコンセンサスが得られなかった。
第3章では「バイオテクノロジーの応用と開発」では、、
現代のバイオテクノロジーのほとんどすべての方法と成果はすでにある点までは地域に応用されていることを認め、
伝統的方法を含む他の技術と適切に統合されたバイオテクノロジーは、農業生産を大幅に増加させ、食物の品質と栄養分を改善し、
収穫前と後の損失を減少させ、生物救済と環境改善を進める可能性があることを決議した。しかしながら本会合は、
バイオテクノロジーの発展と大幅な応用に関する問題と関心は、とくに人間の健康と環境の保護に関する領域において、
適切になされるべきであるということを認めた。
そして、本会合は、FAOが加盟各国に、潜在的なネガティブな影響を最小化しつつ、
バイオテクノロジーの積極的成果を実現できるように支援する努力を広く支持した。本会合は、FAOに対して、
バイオテクノロジーに関する政策助言、情報交換、技術的支援のプログラムを強化するよう勧告する。
第4章「世界食料サミットのフォローアップ」では世界8億人の栄養不足人口を半減するとした目標達成は難しい、と述べている。
こうした高級事務レベル会合の討議内容は、目標達成ができないという見通しに対して充分な総括がなされておらず、
むしろバイオテクノロジーの推進や投資の拡大といった世界貿易の是認や科学技術への過度の信頼がみられ、
予防の原則が明記されていないなど多くの問題を含んでいるといえる。
(3) FAO-NGO/
CSO協議会
8月28日から29日にかけてFAO-NGO/CSO協議会が開かれた。
FAOのアジア太平洋地域事務局のR.B.シン事務局長の開会挨拶のあと2つのワークショップが開かれた。
□ ワークショップⅠ「世界食料サミットのフォローアップ」では日本のJA女性協議会の伊藤さなゑ副会長が、
持続可能な食料安全保障を達成するためには、女性の参加、視点が不可欠であると述べた。
そして国内農業生産によってはじめて農業の多面的機能が発揮されること、
貿易自由化のみによって食料安全保障を達成しようとするのは建設的な提言ではないことを強調した。
フロアーからは、水産資源の保護の必要性、遺伝子組み換え食品の危険性、輸出農産物の危険性、
女性の視点を農業に生かす必要性などについての発言がなされた。(日本からは日消連の富山さん、ふーどアクション21の山浦も発言した)
フィリピン自作農民連合会のレオナルド・モンテマイヨール専務理事は「貧困の撲滅とすべての人にとっての食料安全保障の達成」と題して、
現在も食料安全保障が世界で達成できていない状況を訴えた。それは都市化、貧困の増大、農業を取り巻く環境の悪化が原因となっていると述べた。
アグリビジネスの多国籍企業による支配、バイテク企業の種子支配、農地改革が真剣に行われていないといった現状に対し「貧困者に力を与えよう」
と訴えた。
韓国農業協同組合中央会のシル・クアン・リー部長は、農産物貿易の自由化拡大が食料輸入国の農業生産基盤を急速に減少させた、と述べ、
食料輸入国の食料安全保障の提案を行った。すなわち、「非食料安全保障指数」を作ること、
食料輸入国の主食に対する政策をWTO加盟各国は認めること、国内生産を拡充し農業の多面的機能を推進すること、
WTO交渉をNGOとCSOが監視すること、地域の農家と協同組合が環境にやさしい方法で高品質の農産物を生産し消費者のニーズに応えること、
である。
スリランカのSARVODAYAのシリル・エカナヤケ常務理事は、農村での通信網の確立、緊急時の国の対策、外国からの援助の確立を強調した。
□ ワークショップⅡ 「情報の共有と分析、政策対話の行動に向けた戦略と優先事項」では、まずインド農村開発自主組織協議会のP.M.
トリパシ会長が、すべての人々に持続可能な食料安全保障を達成するためには情報の共有化が大切である、と述べ、識字率の低い地域でICT
(情報コミュニケーション技術)を普及するためNGO、CSOの協力も必要であると強調した。
ネパールのディディバヒニのサロニ・シン専務理事は、地球規模の不均衡は世界の富裕層と貧困層、
先進国と開発途上国の間の格差となってあらわれているとし、性別などの差別の撤廃措置、人間の能力開発、
生態学的な持続可能性の確保の必要性がある、と述べた。
フロアーからは、FAOは多国籍企業の動向を含めた情報の普及をはかるべき、消費者に悪影響を与える企業をボイコットしよう、
少女など女性が開発の犠牲になっており、経済的にも自然・人間中心の新たなパラダイムが必要である、
地域の情報の発信基地として学校を利用しよう、国の食料安全保障政策をロビイングしよう、といった意見が各国のNGOやCI(国際消費者機構)
から出された。
フィリピン農地改革・農村開発センターのアントニオ・クィソン会長は、FAOも支持した70年代の「緑の革命」の問題点を指摘した。
すなわち緑の革命は社会的・生態学的な影響を無視し、都市化・産業化の中で農業・農村コミュニティが崩壊したこと。
それは強大な多国籍アグリビジネスの参入と支配を可能にし、小規模農家の消滅をもたらす自由化政策に向かったことである。
また80年代には国民の食用作物よりも輸出作物が重要視され農業生産が集約的になった。GATTのラウンドによって、
国内生産者を保護しようとする発展途上国の防壁が削り取られていったのである。90年代は規制緩和と民営化によって農業の企業化が始まった。
現在、多国籍のアグリビジネスが、種子支配、バイオテクノロジーに手をのばし、大手スパーマーケット・
チェーンが食品小売業への支配を強めている、と分析した。
バングラデッシュ開発組織協議会のシャムスル・ヒュダ常務理事は、バングラデッシュの分析から「緑の革命」
は農産物の輸出志向を生じ国民の食料安全保障は危機に陥るとのコメントが加えられた。
そしてFAOは農業労働者の生計保護ばかりでなく生物多様性の保護と環境衛生の目標を伴った、NGOとCSOによって開始、
組織化された社会的行動と運動を推奨し、その方針を支持すべきである、と述べた。
フロアーから、山浦も、フィリピンのクィソン会長の発言を支持し、各国とも人権としての食料に対する権利が認められるべきこと、
多国籍企業の種子支配、バイオテクノロジー戦略に消費者も反対している、と述べた。
最後に議長が2日間にわたる討議をまとめ、本協議会の報告書を作成し、それが承認された。
(4)
FAO閣僚会合
閣僚会合は8月31日と9月1日に開かれた。まず、
高級事務レベル会合の報告がなされ、それを閣僚会合として承認した。その後2日間にわたり、27カ国代表の声明が出された。アジアからは中国、
フィリピン、韓国、タイ、ネパール、日本、朝鮮民主主義人民共和国、インドネシア、イラン、ラオス、インド、ミャンマー、バングラディッシュ、
ヴェトナム、カンボジア、マレーシア、ブータン、モルディブ、パキスタンの閣僚たちが報告した。また太平洋諸国からはサモア、トンガ、
ニュージーランド、パプアニューギニア、マーシャル諸島、ニウエ、キリバス、オーストラリアの閣僚たちが報告した。その内容は各国とも共通して、
食料の安全保障を大切にしたい、飢餓人口を減少させるのは困難な課題だ、貧困問題の解決が重要だ、というものであり、
農産物の貿易自由化が国内の自給的農業を衰退させ農村を崩壊させた、との主張も目立った。
またバイオテクノロジーについては農業生産力を高める手段として期待できる、という主張も多くなされた。
次にNGO、CSOの意見表明がなされた。JA全中の原田睦民会長は、FAO-NGO/CSO協議会の報告として、女性の地位向上、
多面的機能のためにも国内の食料自給が重要であること、小規模家族農業を維持する必要性、
貧困問題には農地などの生産基盤づくりが必要であること、などを訴えた。しかし遺伝子組み換え食品の危険性の指摘はなかった。その他、
3団体からの意見表明があり、議長によるこれまでの会議のまとめが行われ昼過ぎ休会に入った。
(5)最終報告書の採択(9月1日午後4時)
2日間にわたる閣僚会議の結論として、そして、
5日間にわたるFAOアジア太平洋地域総会のまとめとして最終報告書が検討された。これは11月のFAO全体の理事会に提出されることになる。
ところがその報告書は次のような多くの問題をかかえたものであり5日間にわたる会合の成果を充分に反映したものではなかった。
□ 閣僚会合のこの報告書を作るに当たっては、高級事務レベル会合の報告書の主要な章である、第2、3章、そして第4、5、6、
7章における各文章の主語をSenior officersから the conference(本会合)や delegates(代表団)
に置き換え、これがそのまま閣僚会議最終報告書第3章から8章となっている。
8月31日と9月1日に行われた閣僚会議の議論のなかの上記の各国別声明とNGO・CSOの意見は全く反映されなかったのである。FAO-
NGO/CSO協議会の報告書は閣僚会議の入り口の前のテーブルに31日に参加者への配布資料として積まれてはいたが、
これが最終報告の内容に影響を与えたわけではなかった。このことは、FAOアジア太平洋地域総会の進行が官僚主導で行われ、FAOはNGO・
CSOとの協力関係を築く、という謳い文句も実際には反故にされ、閣僚たちは最終報告書の作成には関与せず、
閣僚会議はセレモニーにすぎなかったのである。
□ 報告書の内容としても多くの問題点がある。まず、
飢餓人口の半減という目標がなぜ達成不可能になったのかについての徹底した議論が反映されていない。これは自由貿易の問題点として、
上記のNGO・CSO会議においても、閣僚会合の各国別声明の中でも、国内の農業の衰退の状況が語られたのであり、
報告書でもアジア太平洋の状況をふまえて、緑の革命がもたらした悪影響、貿易自由化では食料安全保障が達成されないことを明記すべきであった。
次に農業の振興、生産力の増大のために、バイオテクノロジーが安易に導入される傾向があることが問題である。これはとくにNGO/
CSO協議会では、バイテクの危険性が訴えられたのであり、FAOとしても「緑の革命」がもたらした環境、農村への悪影響を十分に反省し、
第2の「緑の革命」ともいえるバイオテクノロジーに対して予防原則に基づく慎重な姿勢をとるべきである。
本会合がアジア太平洋地域へのバイオテクノロジー推進の露払いとならないようにしなければならない。
各国の閣僚声明の中でのバイオテクノロジー賛美の立場に対しては一方的な情報操作の懸念もある。
そうした国々に対して科学的な情報の提供と消費者の不安の声を訴えていく必要性もある。(了)