フランスの農業政策と品質表示
[ 2000年06月06日 レポートに戻る ]
日本消費者連盟副運営委員長
山浦康明
6月6日、都内でフランス大使館経済商務部が主催し日本の農水省が後援する説明会が開かれました。
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■ フランス農業省の経済・国際政策局、農業・工業政策課・課長のエディット ヴィダルさんが進行役を務めました。
まず経済・国際政策局業界付加価値化・組織化課課長のマリー ギタールさんが「フランスの品質及び原産地に関する行政」
とのテーマで講演しました。
フランスの農産物及び加工品にはAOC(原産地呼称証明)ラベル・ルージュ(品質保証ラベル)CC(基準一致証明書)AB
(有機農産物認証制度)モンタージュ(山岳地帯)などのロゴマークをつけることができます。
このロゴマークの制度に関しては政府および業界が枠組みを作り生産者の作業仕様書が作られました。この仕様書(スペック)
の順守がなされているかどうかを私的認定機関がチェックしまた政府機関もチェックを加えます。
AOC(原産地呼称証明)とは生産地の名称を名乗ることができる表示であり、フランス産のワインやチーズ、家禽や果物などに見られます。
この制度は1919年からはじまり、生産に関する質が産地の伝統に基づくものであることを条件として、
その産地で生産されたものであるということを守るためにつくられたものです。フランスワインの約45%
はAOC商品であり葡萄の生産者は一般の2倍以上の生産収入を上げています。またAOCのチーズは中山間地の重要な収入源となっています。
このAOCの認定を受けるためには4つの条件が必要とされます。すなわち、1.範囲を限定された生産地区、2.
正確な生産条件を満たしていること、3.安定した知名度と評価を得ていること、4.認定の諸手続きの対象となるもの、です。
ラベル・ルージュ(品質保証ラベル)は食品の味に対するこだわりから生まれ、1960年の農業法で制度化されました。
このラベルは政府により発行されるマークであり全体の特質が一定であり、一般のものより高品質のものを対象としており、家禽、食肉、
ハムソーセージ、果実、野菜、乳製品、加工品、海産物、飲料、非食品農産物などの分野にみられます。この基準はたとえば家禽においては、
2週間ごとの技術検査、2ヶ月ごとの抜き打ち検査、鶏舎を大規模にしないこと、出荷までの生育期間、飼育条件、穀類70%を基本とした飼料、
屠殺までの期間81日、屠殺方法など細かく決められており、高品質の鶏肉の生産が行われており、消費者の支持を得ています。
AB(有機農産物認証制度)は環境問題、家畜動物の飼育環境、有機ごみのリサイクルなどの視点から作られ、
有機肥料や無農薬害虫対策などの生産方法、切り替え準備期間を2年とすることなどが条件となっています。この制度は1991年、
生物学的農業生産様式として植物農産物がEU規則の中に採択され、1993年には動物やその加工品にも適用されました。
この表示マークを取得するためには次の条件が必要です。1.県の農林課または輸入業者担当税関にAB(アグリキュルチュール・ビオロジック)
農家となりたい旨を通知します。2.ABであることを証明する所轄組織による検査を受けること。3.
非加工植物農産物に関してはEU規則にある生産条件を尊重すること。動物加工品と非加工動物はフランスAB委員会の仕様書に従うこと。
このラベルに関しては2万ヘクタールの農地に3000の生産者と250の企業が活動しています。
CC(基準一致証明書)は1990年に制度化された品質保証で、近代的な商品生産と区別するために、
個性的な規格や生産技術基準を維持しようとするものです。若鶏の身、シードル、牛乳飼育の子牛、屋外飼育の鶏卵、発泡葡萄果汁、コーヒー、
フォアグラ缶詰、ハムなどがあります。 こうした品質を保証された商品を生産することは、生産者が自らの手で生み出した商品が個性的であり、
安全性も高く、生まれ育った土地を代表する産物であり、消費者にその質が高く評価されるとしたら生産者にとってやりがいのある仕事になります。
またAOCのように生産地の名前が重なる場合は町名の地名度を高めることになり、農業所得が保証され、農地の維持が可能になれば、
伝統的農村空間の質も高まります。
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■ 次にフランスの全国ワイン・スピリッツ同業者委員会のジェローム アゴスティーニさんが「ワインに関する原産地呼称」について説明しました。
フランスワインに関する呼称はすでに19世紀末からおこなわれていましたが、
品質を高め不正行為に対して有効に対処するために1935年にAOC(原産地統制呼称)のシステムと国立原産地呼称研究所(INAO)
が創設されました。このAOCを受けるためには、1.ワインが範囲の限定を受ける、2.葡萄の木の伝統的な品種がその地域固有のものであること、
3.生産性の最高限度が決められ、アメリカやオーストラリアの二分の一から三分の一の生産性にとどめること、4.
生産や仕上げに関する伝統的手法が存在し、分析的、感覚的印象的刺激による事前検査を受けること、が必要です。INAOは葡萄栽培農家、
卸売業者の代表からなる公的機関でありチェックをし品質向上に努めています。
原産地呼称の管理のためには、各地のワイン同業者組織があり、これが地区の葡萄栽培者や卸売業者をとりまとめ政府のコントロールのもと、
市場の均衡、生産物の値上げ、普及活動、品質管理を行っています。
フランスにおいてはAOC名を中心とする集団的コミュニケーションが重要な役割を果たしており、
アメリカやオーストラリアのブランド重視とは対称的であり、品質本意の農業を可能にしているのです。
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■ 次にフランスのジェール県家禽協会のピエール ブッフォさんが鶏肉を例に優良品質を保証する赤ラベル(ラベル ルージュ)の説明をしました。
ジェール県には鶏の屠殺場が3つ、生産者団体が3つ、飼育業者が480ありますが、「ジェール」という統一ラベルを作り品質管理をおこない、
消費者の強い支持を得て、フランスで第2位の鶏の知名度を得、第3位の生産量を上げています。
生産の基本ルールとしては、公認の純血種を、400m2の仕切のある建物で時間的にも空間的にもゆったりと伝統的に育て、飼料は80%
を穀物とし、屠殺年齢は最低81日とします。地域の静かな環境も動物にストレスを与えないメリットになります。生産管理は、生産、飼料、屠殺、
販売店で年間合計150の管理拠点をたてて行います。生産工程の透明性を確保するためには通し番号付き原産地証明書、引取証明書、
ラベルの記録管理を行います。
こうした赤ラベル品質保証を確保することにより、動物の快適さを重視する粗放飼育を行い大量生産とは一線を画し、
透明性を確保することにより業界のすべての関係者のプロフェッショナル化をすすめることができます。
それは生産物の経済評価をさらに高めることにもつながります。
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■ 次にフランスの赤ラベルの認定機関の一つ、セルティパック(CERTIPAQ)のロイク ガロワさんが認定機関の役割について説明しました。
品質保証のロゴマークは生産者・納入業者が作業仕様書や規格を守り、付けることができますが、
それはそのまま品質レベルを保証することにはなりません。
第三者の認定機関による公式認定が行われてはじめて消費者にも信頼に足りる生産物となるのです。
認定機関は、まず、CNLC(全国品質保証ラベル・基準一致証明書委員会)により認可され、COFRAC(フランス認証委員会)
により認証されて後、初めて独立した第三者の管理機関としての活動をすることができるのです。
この活動のためには4つの基準が満たされる必要があります。1.独立性を確保するために検査対象の組織からの補助金を受けてはなりません。
検査料や予算・決算書を明らかにしておく必要もあります。2.免許や証明書を授与したり取り消したりする任務のため、認定機関は事業者・消費者・
実需者・専門家の利益を反映する認定委員会を設置し、この委員会の決定は投票に基づき議事録にも記載される必要があります。
委員は守秘義務も課せられます。3.認定機関は専門性を維持するため研修を継続的に行い、
下請け機関に委ねる場合にはその専門性もコントロールする必要があります。4.この認定機関の有効性については、生産管理の際の監査資料の審査、
及び認定機関が扱っている書類を監査する必要があります。
認定機関のセルティパックは、ラベルの申請がなされると、監査を行い、生産物の分析をし、ラベル付与を承諾し、
このラベルをCNLCのラベル担当者に送り、そこで最終的にそのラベルは有効と認められます。これらすべての段階を経て、
セルティパックは申請者に対し、品質保証ロゴマークを付けた生産物の商品化を許可する旨の文書を発行できます。
ロゴマークの申請者は申請の際の項目すべてについて定期的にコントロールを受け、不適合点は評価欄に明示されます。
認定委員会はロゴマークを受けている者の不適格な行為があった場合は「制裁表」の基準に基づき「単純注意」、書面による「警告」を行います。
より深刻な場合には、免許及び証明書の全体または一部の一時停止または取り下げを宣言します。すると生産者団体または業者は、
ロゴマーク付の商品は扱えなくなります。認定機関はこの場合直ちに公的機関に情報を伝える義務があります。
結論として、認定機関は、第三者的機関であり、その活動は顧客または消費者に対し、品質保証の実施に対する信憑性を与えるものであり、
これは国際的にも信頼を得ているのです。
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■ 最後に欧州委員会の農業総局の経済関連法制度局・
品質政策課のスザーナ ペレーズ=フェレラさんが品質表示制度の意義をWTOとの関係もふまえて論じました。
ヨーロッパの消費者は近年食品の品質や原産地を大事にするようになりましたが、
なかなかその素性を知ることはできなくなっている現状があります。そこでヨーロッパでは品質保証の制度が作られるようになったのです。
1935年にはすでにINAO(国立原産地名称研究所)が設立されました。これは葡萄の虫害(ブドウネアブラムシ病)
に端を発する葡萄栽培危機に対し行政政策の必要性が叫ばれたからです。まずワインの分野でAOC(原産地統制呼称)が生まれました。
これは生産地、土壌、人間のノウハウが密接なつながりを持つことを証明するものでした。
1960年以降には品質保証ラベルと高品質の概念が生まれました。
これはワインのAOCほど厳密ではないが生産方法が工夫され品質改善が行われ高品質のものが作られたことに対する消費者の支持が得られたことによるものです。
このために作業仕様書が作られ、公平性、自立性、専門性及び有効性を認定機関が管理することにより、生産管理をすることが承認されたからです。
1980年代はとくにフランスで有機農業の需要が拡大し、行政から認証された作業仕様書(スペック)が作られ、
行政から承認された認定された認定機関による生産管理が行われるようになったのです。1980年代にヨーロッパの共通農業政策(PAC)
が発展し続け1991年にはAB(植物性生産物の有機農業)に関するヨーロッパ共同体レベルでの規定が制定されました。
これが1992年の大改革へとつながります。「農産物及び食料品の産地表示と原産地呼称の保護に関する規則(CEE)」が制定され、
その中で原産地保護呼称、産地表示、特定証明に関するヨーロッパ共同体レベルでの規定が策定されたのです。
それは地理的名称及び伝統的製法に関するヨーロッパレベルでの保護であり、
この規則の要求を満たしていれば各国の品質ロゴマークをEUとしても保護するというものです。フランスの原産地統制呼称(AOC)
はEUの原産地保護呼称(AOP)と同義とされ、フランスの基準一致証明書(CC)はEUの産地表示(IGP)と同義とされたのです。
1999年7月9日のフランスの農業基本法(LOA)はINAOの役割を強化することを目指しています。
産地表示に対する管轄の範囲を拡大し生産国表示もその範囲としたのです。一方で同年、動物性生産物の有機農業(AB)
に関するEUレベルでの規定が制定されました。
こうしたシステムについてEUは、「貿易関連知的所有権に関する協定(TRIPS)」の利用を重視しています。すなわち、
GATT協定の知的所有権を用いて原産地表示をめぐる紛争解決をはかってきました。そしてWTOのもとにあっては
「貿易関連知的所有権に関する協定の評議会」を通じて産地表示の通達と登録のための組織を設立しようとしているのです。
EUはこのように多国間レベルでの産地表示保護を求めようとしているのです。
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■ 次にフロアーからの質問・意見が出されました。
北海道のチーズ生産者からは「アメリカが強調するグローバルスタンダードとEUのスタンダードとの関係はどうか」との質問が出されました。
パネラーからは「EUの規準は地域や家族農業を大切にしており、企業間の格差の是正にも役立つものだ。」との回答がありました。
「検査認証の費用は高くつくがそれを負担するのは、生産者、消費者、国のいずれなのか」との質問には、パネラーが
「フランスの消費者は品質のよいものを多少高くても買う傾向があり、消費者が負担している。」との回答がありました。
日本のワイン流通業者から「AOCを受ける際に土地や品質の点でごまかしはないのか、」との質問がありましたが、パネラーからは、
「正直でない者もいないとはいえないが、強固な組織であるAOCがペナルティを課しさらに公的機関がペナルティを課す。
また不正に対しては農業協同組合が連帯責任を負う。」と回答しました。
「AOCの制度には農協は一体となって参加しているのか」との質問に対しては、パネラーから「協同組合はナポレオン時代からの伝統がある。
今でも農協は生産者が主体的に集まってつくるものである。AOCの制度を重視するところもあれば、農協が独自にワインを販売する場合もある。」
と回答しました。
東大の生源寺さんからは「AOCは地域の多様性を大切にするが、スーパーマーケットやハイパーマケットとの関係はどうか」
「AOCの供給量は伸びているか」「日本では今回導入された有機認証制度に生産者は不安を抱いているがフランスではどうだったのか」
などの質問が出ました。
パネラーからは、「フランスの消費者は原産地を強く知りたいと思っており、
スーパーマーケットも原産地表示した商品を高価格になってもそろえる」「消費者のAOCへの関心は高く需要は伸びており多少割高でも購入する。
生産者も増えている。」「認証制度の導入は、混乱が生じないように数年間かけて行った」との回答がありました。
広島大の地井(?)さんからは「フランスの国土の20%が原産地表示システムに参加しているが、一般農家との不協和音はないのか」
「原産地表示の国際的保護はどうなるのか」との質問が出ました。
パネラーからは、「有機農法は魅力的な農法となっており、一般農家もそれに注目しており、この制度に関する不協和音は少ない」
「グローバリゼーションの観点からは、AOCは企業規模間のバランスを回復する機能が認められ、原産地表示を国際的にも進めることは有益である」
との回答がありました。
日消連の山浦は「日本は農産物の国内自給率が低く、輸入農産物に多くを依存している。まず国内自給を高めることが必要だが、
原産地表示を強化することは日本の消費者にとっても有益である。」「GM(遺伝子組み換え)
食品や飼料の表示の徹底と規制がフランスでは行われており敬意を表する」「コーデックス委員会での議論でも追跡可能性(トレーサビリティ)
を重視する必要があり原産地表示のシステムは参考になる。」と述べました。
パネラーからは「フランスは消費者の健康を第一に考えており、アメリカ産のGMOは輸入しない。」
「食品は国内で分け合って食べるという哲学が大切ではないか」「砂漠化など環境保全の点からも国内農業を守ることは必要だ」
との回答がありました。
日本のJAの役員からは「鶏の飼い方を重視しているのはヨーロッパ流の動物愛護の精神の現れか」との質問が出され、パネラーから「その通りだ。
屠殺方法も注意している。」との回答がありました。
フランスの農業経営に対する質問には、パネラーから「確かに品質表示を行うことは農家にとっては作業条件が厳しくなり大変な面がある。
しかしこれにより家族経営を続けることができまた良い製品をつくり経営の安定も得られるのだ。」と自信に満ちた回答があったことが印象的でした。