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現代コメ開発事情

[ 2000年06月04日 レポートに戻る ]

提携米ネットワークコーディネーター
牧下圭貴

 遺伝子組み換えによるイネの品種開発が進んでいます。国内でも、JT(日本たばこ産業)とイギリス・アストラゼネカの合弁会社オリノバ (静岡県豊田町)が、遺伝子組み換えイネの試験栽培を通常の水田で行っています(開放系利用)。この稲は、 コメのタンパク質を遺伝子組み換えによって減らしたもので、酒米、低タンパク食事療法などに利用するというものです。 商業栽培まであと一歩というところまで来ています。かたや、 スーパーライス計画などによりできた新品種ミルキークイーンが作付け面積を増やしています。
 イネの品種開発は、長い間品種同士の交配によって行われてきました。その後、世界中のイネを集めて品種開発の幅を広げたり、 突然変異を誘発する化学物質や放射線を利用して品種開発を早める方法や細胞融合などの方法もとられています。 遺伝子組み換えも品種開発の高度化の流れから来たものです。しかし、遺伝子組み換えは、それまでのイネの品種開発とは異なり、 生命の設計図である遺伝子を直接操作することで、自然界では本来なかったような特徴を生み出しています。
 本稿では、最近のイネの品種開発について、実際にどのように行われているのか、現状がどうなっているのかをまとめました。とりわけ、 「スーパーライス研究」「イネゲノム研究」「21世紀グリーンフロンティア」など、官主導のプロジェクトについて、 その位置づけや内容を整理しています。

●ミルキークイーン
「コシヒカリよりも粘りがあっておいしい」と銘打って登場したのが新品種ミルキークイーンです。「関東168号」 にミルキークイーンという名前がつけられたのは、1995年のことです。最近では作付け面積を徐々に増やし、 お米屋さんの目玉品種になっているようです。ミルキークイーンは1985年に育成がはじまり、配布は1992年からはじめられています。
 ミルキークイーンは、 農林水産省の農業研究センターがコシヒカリの受精卵に化学物質のメチルニトロソウレアを処理してできた低アミロースの突然変異体です。そのため、 イネの栽培上の特徴などはコシヒカリと同じで、イモチ病に弱いというコシヒカリの特徴も持っています。ただし、アミロースが9~12% と少ないことや玄米がやや白濁しています。やわらかいため炊飯時も水を1割ほど減らして炊きます。 このミルキークイーンは農水省のスーパーライス計画によって作られた新品種とされています。
 同じスーパーライス計画でできたとされる品種としては、スノーパールやサリークイーンなどがあります。スノーパールは、 東北農業試験場が開発したもので、74wx2N-1とレイメイの組み合わせから育種された品種です。低アミロース米であり、 冷めても硬くならないとしてチルド寿司やアルファ米、加工米菓に向くとされています。 サリークイーンは日本晴とBasmati370の組み合わせから育種されました、開発は農業研究センターです。 世界的には高価格なバスマティライスと同様の香りを持ち、西日本で栽培可能な長粒種です。エスニック料理向きとして開発されたものです。

注:メチルニトロソウレア(MNU)植物の突然変異を引き起こす化学物質。強い発ガン性があり、 動物実験などで動物にガンを引き起こすために用いられることがある。

●スーパーライス計画
 スーパーライス計画とは、1989年度~94年度の6年間行われた「需要拡大のための新形質水田作物の開発」(新形質米) 研究プロジェクトのことです。その後、95年度から「画期的新品種の創出等による次世代稲作技術構築のための基盤的総合研究」(次世代米) が行われています。研究は、つくば市にある農林水産省農業研究センターを中心に全国の農業試験場で行われています。
 また、近年は新農業基本法に沿って農林水産省転作作物プロジェクト研究も行われており、飼料米などの開発が進んでいます。
 筆者は、農業研究センターを見学し、稲育種研究室の研究員から話をうかがう機会を得ました。その際、低アミロース米や長粒米、 麺好適米などの品種開発をする際にどのような開発指針で行っているのかを聞いたところ、市場の動向などを踏まえて将来の需要を考え、 研究室で検討して決めているとのことでした。生産者や消費者の意見を聞く機会は「持ったことがない」とのことです。
 なお、スーパーライス計画で開発された品種には遺伝子組み換えのものは含まれていませんが、 農業研究センターならびに各地の農業試験場でも遺伝子組み換えイネの研究は行われています。

●21世紀グリーンフロンティア研究
 21世紀グリーンフロンティア研究は、農水省が推進している遺伝子組み換え技術やクローン技術を活用した新品種開発を核にした事業です。 イネゲノム研究の前倒しや遺伝子組み換え、クローンなどの技術開発について、基礎研究から開発までを、 農業生物資源研究所や農業研究センターをはじめ、農林水産省の機関のみならず、大学や民間にも委託して押し進めるものです。 この研究プロジェクトのうち、遺伝子組み換えによる病害虫などへの抵抗をもつ品種開発プロジェクトを「スーパー・レジスタンス計画」 と名付けています。イモチ病耐性イネや殺虫性イネなどを開発し2006年には作付けを目指したいとしています。

●イネゲノム研究
 イネの全塩基配列を解読し、どこに有用遺伝子があり、どのような機能を持っているのかを解明し、 DNAライブラリーを整備して研究に役立てるプロジェクトで1998年にスタートしました。
 農業生物資源研究所(NIAR)、社団法人農林水産先端技術産業振興センター(STAFF)が共同で、イネゲノム研究チーム(RGP, Rice Genome Research Program, NIAR/STAFF)を作り、そこを中心に行われています。また、 アメリカを中心にイギリス、フランス、中国、韓国なども国際協力して解明をすすめることになっています。穀類の塩基配列には共通点が多く、 イネがもっともゲノムサイズが小さいため、イネを解明することで他のムギなどの研究にも役立つと考えられることから、 イネの研究が優先されています。
 全塩基配列ができたあとは、有用な遺伝子の所在を見つけ、 それが例えばイモチの耐病性や耐寒性など実際の機能にどのように結びついているのかを解明します。そして、 最終的には遺伝子組み換え技術などによって新しい品種開発に役立てるのが目的です。
 現在は、イネゲノム研究第2期計画として、行われており、21世紀グリーンフロンティアの組み換え植物体研究との連携が行われています。
 イネゲノム研究では日本が世界のリード役となっていますが、遺伝子組み換えをはじめとするバイオ技術の基礎研究から応用、産業化にあたっては、 アメリカ、ヨーロッパに対し大きく遅れているとの危機感が日本の産業界、政府に強くあり、 国内の研究機関のつながりや連絡を強化するための方策が検討されています。
 イネゲノム研究についても、国際的な連携で塩基配列データを公開することになっていますが、 一方でアメリカのベンチャー企業が塩基配列データをもとに有用遺伝子の特許化を行う戦略をとっていることから、 遺伝子の特許権をめぐる問題も登場しています。特許権については、国際的な遺伝子特許などのルール統一など課題も多く残っています。

●遺伝子組み換え
 21世紀グリーンフロンティア研究の柱には遺伝子組み換え技術の研究があります。バイオ技術、バイオ産業は21世紀の中心産業ともてはやされ、 欧米を中心に研究機関、政府機関、産業界がこぞってバイオ研究、技術開発をすすめています。遺伝子組み換え技術はその中でももっとも大きな、 そして基本的な技術と考えられています。イネで言えば、全塩基配列を明らかにし、有用遺伝子を探し出し、有用遺伝子を持つ品種を探し出し、 その有用な部分の遺伝子を特許として「知的所有」すること、さらに、遺伝子組み換え技術により、有用遺伝子を組み込んだり、 他の生物からの遺伝子や人工的に遺伝子を組み込むことで新しい形質を持ったイネを開発し、「販売」することが考えられています。
 栽培作物の遺伝子組み換えは大きく3つの方向性があります。
 ひとつは、除草剤耐性や殺虫性(害虫抵抗性)など、農薬とセットで利用したり、 農薬と同等の役割を新しく与えようというもので栽培上の特徴を与えるものです。生産者にアピールし、 アメリカやオーストラリアで一気に普及したものです。
 ふたつめは、品種改良を早めるためのものです。超収穫米や低アミロース米、脂肪分の多いコーン、タンパク質の多いコーンなど、 本来の品種改良でも可能ですが、より早くかつ効果的な品種改良効果を上げるために行うものです。
 みっつめは、日持ちトマトやベータカロチンを組み込んだイネ、 薬効を組み込んだイネのような本来その植物には備わっていなかった特徴を加えた高付加価値品種を開発するというものです。
 遺伝子組み換え技術の栽培作物への応用に対しては、食べる人間や生態系への影響が懸念され、世界中で反対運動が起きています。そこで、 たとえば、遺伝子組み換え作物の研究者は、ビタミンA欠乏症により毎年100万人以上の子ども達が死亡しているから、 ベータカロチンを組み込んだイネを普及させ、ビタミンA不足症を減らそうと訴えます。遺伝子組み換え作物の登場時にも、これで「飢餓がなくせる」 と種子の販売をした農薬会社は標榜していました。しかし、 ビタミンA欠乏症があるからビタミンA前駆物質のベータカロチンをイネに組み込んで普及させればいいというのは、どうも本末転倒のような話です。 また、飢餓がなくせると言っても、「緑の革命」と同様、産業構造、流通構造、社会構造、国際貿易(搾取)の構造が変わらない限り、 いつまでも飢餓・貧困層には満足できる食べものが行き渡らないことには変わりはありません。今、この時点でも、 人口増加と農地の疲弊により切迫はしつつありますが、生産量はすべての世界人口をまかないうるだけはあるからです。 分配の問題を技術の問題にすりかえている議論です。
 さて、それは余談ですが、イネの遺伝子組み換えについてまとめてみましょう。

●日本の遺伝子組み換えイネ
 日本で遺伝子組み換え作物を開発するには、基本的にまず科学技術庁の確認により閉鎖温室実験、非閉鎖温室実験を行い、その後、 農林水産省の確認により隔離ほ場試験を行った上で、農林水産省の確認により、一般ほ場への栽培が可能になります。
 それとは別に、輸入、食用としての流通にあたっては、厚生省の安全性審査を受けることになっています。2000年5月段階で、 コメに関してはこの安全性審査は行われておらず、輸入、国内生産ともに流通していません。
 なお、厚生省の安全性審査も農水省の確認と同様にガイドラインによるもので法的な義務ではありません。また、 いずれも開発者側が提出した資料をもとに審査するだけです。厚生省では安全性審査の義務化を検討中ですが、「実質的同等性」 を前提にすることや開発者側の資料に基づく審査のみというのは変わらないようです。農林水産省では、 安全性の議論抜きに遺伝子組み換え食品の表示について30品目を指定して義務化しました。一歩前進ですが、食用油など対象外になったものもあり、 決して満足できるものではありません。表示以外の部分で十分な注意が必要です。
 さて、日本の遺伝子組み換えイネ開発状況ですが、ここ数年、急速な勢いで増えています。時間を追って、すべて書き出しました。 (2000年5月現在)

 農業研究センターおよび農業生物資源研究所によりウイルス病抵抗性 (イネ縞葉枯ウイルス外被タンパク質遺伝子を導入)日本晴が開発され、 1994年に農水省のガイドライン確認を受け一般ほ場での栽培が可能になりました。

 農業環境技術研究所および(株) 植物工学研究所によりウイルス病抵抗性(イネ縞葉枯ウイルス外被タンパク質遺伝子を導入)キヌヒカリが開発され、 1994年に一般ほ場での栽培が可能になりました。

 三井東圧化学(株)(農業環境技術研究所) により、低アレルゲン米(イネアレルゲン遺伝子のアンチセンス側を導入)キヌヒカリが開発され、 1995年に一般ほ場での栽培が可能になりました。

 (株)加工米育種研究所(日本たばこ産業 (株))により、酒造用低タンパク質米(イネグルテリン遺伝子のアンチセンス側を導入)アキヒカリが開発され、 1994年時点で農水省のガイドライン確認を受け、隔離ほ場での栽培試験が可能になりました。

 農業研究センターおよび農業生物資源研究所(農業環境技術研究所)により、 ウイルス病抵抗性(イネ縞葉枯ウイルス外被タンパク質遺伝子を導入)日本晴の2品種が開発され、 いずれも1997年に一般ほ場での栽培が可能になりました。

 日本たばこ産業(株)により、 酒造用低タンパク質米(イネグルテリン遺伝子のアンチセンス側を導入)月の光2品種が開発され、 いずれも1998年に一般ほ場での栽培が可能になりました。

 (財)岩手生物工学研究センター により、 除草剤の影響を受けない(ビアラフォス抵抗性遺伝子を導入)系統番号4というイネが開発され、1998年に隔離ほ場での試験が可能になりました。

 (株)オリノバにより、低グルテリン (アンチセンスグルテリン遺伝子を導入)したイネ4品種が開発され、4品種とも1999年に隔離ほ場での試験が可能になり、 2000年には1品種の一般ほ場での栽培が可能になりました。

 アグレボ・ジャパン(株) (農業環境技術研究所、(社)農林水産先端技術産業振興センター)により、除草剤の影響を受けない(グルホシネート耐性遺伝子を導入) イネが2品種開発され、いずれもアメリカで閉鎖温室実験、非閉鎖温室実験の確認がされ、 1999年に農林水産省により隔離ほ場での栽培試験が可能になりました。

10 モンサント社により、 除草剤の影響を受けない(グリホサート耐性遺伝子を導入)イネ6品種が開発され、いずれもアメリカで閉鎖温室実験、非閉鎖温室実験の確認がされ、 1999年に農林水産省により隔離ほ場での栽培試験が可能になり、2000年には一般ほ場での栽培が可能になりました。

11 全国農業協同組合連合会により、 ヒトラクトフェリン産生(ヒトラクトフェリン遺伝子を導入)イネが開発され、2000年に隔離ほ場での栽培試験が可能になりました。

12 モンサント社(モンサント社、 愛知県農業総合試験場)により、除草剤の影響を受けない(グリホサート耐性遺伝子)イネが6品種開発され、 1998年に科学技術庁の確認により閉鎖温室実験が可能になり、99年に科学技術庁の確認により非閉鎖温室実験が可能に、 さらに2000年には農林水産省の確認により隔離ほ場試験が可能になりました。

 以上です。これとは、別に、東北大学大学院農学研究科が、文部省の承認により、同科付属農場で遺伝子組み換えイネの隔離ほ場試験を5年間、 5アールの面積で行うとの報道があります。これは、農水省の所轄ではないようで、農水省のリストには載っていません。このあたり、以上12品種 (+1)がすべてなのか多少不安があります。
 冒頭にも書きましたが、ここ1、2年で次々に一般ほ場での栽培が可能になった品種があります。もちろん、 一般ほ場での栽培ができるようになったと言っても、それから数年かけて実際の栽培の特徴や適正を判断することになり、 すべてが品種として販売されるとは限りません。また、厚生省への安全性審査はいずれもこれからです。しかし、確実に、 国内で遺伝子組み換えイネの栽培がはじめられていることは確かです。

注:(株)オリノバは、日本たばこ産業(株)とイギリス・アストラゼネカの合弁会社で静岡県豊田町にあります。

参考

■社団法人農林水産先端技術産業振興センター・農林水産先端技術研究所 http://web.staff.or.jp/
■農業生物資源研究所 http://ss.abr.affrc.go.jp/
■Rice Genome Research Program (RGP) http://www.staff.or.jp/
■農業研究センター http://ss.narc.affrc.go.jp/

 


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