新基本法の問題点
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1999.4.30
明治大学兼任講師 山浦康明
■はじめに
去る3月9日、
食料・農業・農村基本法が国会に提出され、ようやく審議が開始されようとしている。農業関連の諸法が昨年以来成立し、
また今国会でも成立する見通しであるが、
新基本法により農政の具体的な方向性が決定されないまま官主導で具体的な農政が次々に打ち出される状況は異常である。
また新法は宣言法という性格を持たされ、
例え成立してもこれまでの農政の仕組みに民主的な枠をはめ国民の声を反映することはむずかしいかもしれない。
この点に関しては新基本法案の抽象性や両義性も一役かっているのであり、本法の問題点(下記に○で表す)を指摘し、対案(下記に◎で表す)
を示すことが急務である。以下にそれら論点を各条ごとに考えてみよう。なお、本稿は筆者も参加した4月28日付「ふーどアクション21」
の実行委員会の声明文の作成過程で論じられた論点や提案に基づいており、それに提携米運動の視点を付け加えて再構成している。今、
運動としての取り組みの必要性は急務である。
(1)新基本法案第1章「総則」
(第1条「目的」について)
○本条はこれまでの各種の基本法と同様に、基本政策の宣言を抽象的に述べるにとどまり、
無内容である。農政の基本方針を具体的に示すべきである。
◎「食料主権」を宣言し、「国は、食料の安全保障を最優先課題として掲げること、食料の自給と安全を確立するために、
まず自国の土地その他の食料生産資源を活用すること」を宣言すべきである。また、それらが実現されるためには
「生態系との共存をはかりつつ地域社会が存続すること」が必要である。
(第2条「食料の安定供給の確保」について)
◎表題は「食料の安定供給の確保」ではなく、「食料の安全保障」とする。
○第1項において、「良質な食料」「合理的な価格」
と表現される食料の安定供給の確保の意図は現状の輸入に依存する食生活を無批判に前提としており、国産の農産物を基本とする農業政策・
食料政策がみられない。
◎第2項は「国内の農業生産の維持拡大」をねらいとし、備蓄、海外援助などを組み合わせることを原則としなければならない。
(第6条「水産業及び林業への配慮」について)
◎表題は「水産業及び林業の振興」とすべきである。また本条は「食料の持続可能な生産と消費は、日本の森林の維持、湖沼・河川・
沿岸水域の水質向上によってこそ可能となる」ことを明記すべきである。
(第7条「国の責務」について)
◎第1項は「国は食料主権を確立するために、~施策を~策定し、実施する責務を有する」とする。
◎第2項は「国は情報を国民に公開する義務を負い、本法の基本理念に関する国民の理解を深めなければならない」と国の責務を強調すべきである。
(第8条「地方公共団体の責務」について)
○本法では、
国と地方公共団体の関係が従来どおりに上意下達になる可能性があり地域の自主性を強調する必要がある。
◎農村の振興については地域社会の要請こそ基本であり、地方分権の精神にのっとり地域住民及び地方公共団体の主体性を重んじるべきである。
そのためには本条は「国との適切な役割分担」という表現を越えて、「地域住民及び地方公共団体は農村振興のための政策主体である」、
「地域社会の範囲を超えた問題については国が調整を行う」との表現にあらためるべきである。
また本法第15条の基本計画の策定においても地域社会の意見を尊重しなければならない。
(第10条「事業者の努力」について)
○「基本理念にのっとり食料供給の努力をするもの」との表現では事業者の位置づけが一般的すぎる。
国産の農産物の使用により食料自給率の向上に協力すること、消費者に安全な食品を供給する義務を負うことを強調すべきである。
◎「事業者は本法の基本理念を遵守する責務を負う」とすべきである。本法の基本理念を実現するにあたっては、
事業者は安易に外国産の農産物を使用することなく国民的視点から「国産の農産物の利用を原則とすること、
新技術による農産物の使用は安全性が確認されるまでは控えること」などを明記し、消費者の安全性を重視すべきである。
(第11条「農業者等の努力の支援」について)
○本条が述べる「自主的な努力」の内容が抽象的である。
◎本条では「生産者と消費者の提携活動を国及び自治体が支援すること」を明記すべきである。
(第12条「消費者の役割」について)
○本条が述べる「積極的な役割」は抽象的で無内容である。
◎基本理念の実現のために、「食料の消費生活の向上」を「食生活の改善」に改めるべきである。消費者は食料を消費する主体として、
安全な農水産物を摂取する権利を有する。しかし、国内産の農水産物の自給を高めるためには消費者の国産指向が必要であり、また食べ残し量の減少、
健康面からの肉食指向の見直し、など消費者の協力が不可欠である。こうした消費者の権利と日本型食生活への方向づけを本条に盛り込むべきである。
(第14条「年次報告等」について)
○既存の「農業白書」
が国会に提出されるだけでは政府の政策に対する検討が十分に行われない可能性がある。
◎年次報告は、本法及び基本計画の進捗状況を詳細に報告し、過去1年間の政策実施の問題点、
執行が不十分であった場合の責任の所在を明確にする必要がある。
新年度の政策に改善のための方策を検討する第三者たる検討委員会を設置する必要がある。
本条にはフォローアップ機関とそのシステムを盛り込むべきである。
(2)第2章「基本的施策」
第1節「食料・農業・農村基本計画」
(第15条「食料・農業・農村基本計画」について)
○計画の策定主体は政府(農水省)となっており、食料・農業・農村政策審議会の意見を聴く、
とはなっているものの官主導の農政が行われる可能性がある。
また現在依然として続く強制減反のように生産者の意向を尊重しない上意下達のシステムを改めるべきである。
◎第1項に、「基本計画は、国民の代表である国会の承認事項である」ことを明記すべきである。計画立案における事前の情報公開を行い、
政策の対象となる地域社会の意向、地方自治体の政策案の尊重、消費者の意見を盛り込むシステムをつくるべきである。
また計画の実施の成果を第三者が評価し、未達成の場合の責任の所在、計画の改善を盛り込むべきである。
◎第5項は「委員会(審議会)の意見を尊重しなければならない」とする。
第2節「食料の安定供給の確保に関する施策」
◎表題は「食料の安全保障の確保」とする。
(第16条「食料消費に関する施策の充実」について)
◎第1項には食料の安全性の確保をより重視して、他の省庁との連携のもとに「安全性が確認されない新規食品の規制」を挿入する必要がある。
またポストハーベスト農薬の心配のある輸入農産物に頼らず、国内産とりわけ地場産のものでまかなえるような政策をとるべきである。
また農法としても有機農業を振興し、生産者と消費者の提携活動を支援する仕組もつくる必要がある。「食料の安全性の確保」
については衛生面での管理強化の強調が生産装置の高額化を生み資本力のある事業者を優遇することのないように配慮すべきであり、
微生物の全面排除といった環境との共生を考えない行き過ぎた衛生管理にならないようにしなければならない。また安全性については、発ガン性、
遺伝毒性、生殖毒性についての観点を加えるべきである。
◎第2項では「国は食料自給率の向上のために国民に日本型食生活を勧める義務がある」ことを明記すべきである。
「健全な食生活に関する指針の策定、食料の消費に関する知識の普及及び情報の提供」の内容は、
現状の食生活が戦後のアメリカ型食生活への指向性の結果であることを反省し、食生活の現状批判を含むものでなければならない。この内容には
「教育を通じた地域の風土食の再評価、食文化の復興」を盛り込み、この点を本項または第3項で規定する必要がある。
(第17条「食品産業の健全な発展」について)
○本項は食品産業が国内自給に果たす役割が軽視されている。
◎食品産業が国内自給に果たす役割を強調すべきである。また「食品の安全性を基本として事業活動をしなければならない」
ことを本条に明記する必要がある。なお現在も広がりつつある生産者と消費者の提携活動も農産物の流通の重要な要素として支援する必要がある。
(第18条「農産物の輸出入に関する措置」について)
○国が輸入制限措置をとる際の基準が不明確である。
◎国内の農産物の減少率などにより国内生産を維持発展させる政策に沿った国民にわかりやすい措置をとるべきである。
(第19条「不測時における食料安全保障」について)
◎国は食料不足を来さないように、国内の農水産物の生産を増大させ備蓄を十分に行うことがその責務であるが、
不測時における対策を国民の合意のもとでとる必要もある。
その際には、食料の分配、流通規制、生産強制が非民主的に行われないように、緊急対策の内容とその手法について情報を公開しなければならない。
(第20条「国際協力の推進」について)
◎国際協力においては、被援助国の食料自給、環境保全型農業の推進を重視し、我が国の都合だけを押しつけることなく、
また多国籍企業の戦略に利用されることのないように留意しなければならない。
第3節「農業の持続的な発展に関する施策」
(第21条「望ましい農業構造の確立」について)
○本条は農業の効率性、規模拡大政策を偏重しすぎている。農業の近代化の結果は農薬・
化学肥料の多投による土壌の疲弊、生産力の頭打ちにみられる限界性をもっていることを認識すべきである。
◎望ましい農業構造は、大型機械利用を中心に農薬・化学肥料を多投する農業から環境保全型農業へ移行する中で、
また農村社会を維持していく上でも小規模な家族農業を切り捨てることのない方法の中に探られなければならない。
(第22条「専ら農業を営む者等による農業経営の展開」について)
◎望ましい「農業経営の展開」を謳うにあたっては、農村社会を維持するためにも、小規模な家族農業経営の活性化を図ることを、
政策の中心に置くべきである。そのため、本法の「専ら農業を営む」の「専ら」は削除すべきである。家族経営農家の協業化は必要性があるが、
農業経営の法人化の要件緩和が株式会社による農業・農地支配につながらないようにするために、株式会社に農地の所有権・
利用権を認めてはならない。
(第23条「農地の確保及び有効利用」について)
◎農地の確保は国内自給率を高め我が国の農業の基盤を強化するためには不可欠の前提である。
国は500万ヘクタール以下に落ちた耕地面積に対して基本計画に基づき拡大目標を立てた上で責任をもって施行すること、
水田の裏作などの有効利用を図ること、減反政策はただちに中止すること、減反などにより耕作放棄された水田の復田などを図らねばならない。
農地の利用の集積、農地の効率的な利用の促進に関しては、株式会社の土地所有を認めてはならない。
(第24条「農業生産の基盤の整備」について)
○農業生産の基盤の整備にあたっては、これまでの公共事業の非効率な側面を見直し、
地域の実情にあった工事を進める必要がある。
◎これまでの農水省主導による全国一律の方式を改め、地域の創意工夫を尊重し、効果的な方式とすべきである。とくに、中山間地域では、
小規模な基盤整備や農民の創意を活かした取り組みへの助成が必要である。
(第29条「技術の開発及び普及」について)
○本条は新規技術のプラス面ばかりを強調しているきらいがある。
◎農水産物の生産・加工・流通にかかる新規技術については、消費者の安全性を確保することを第一に行われなければならない。
科学上の安全性が確認されるまでは「疑わしきは導入せず」の原則で対処すべきである。
(第30条「農産物の価格の形成と経営の安定」について)
○第1項は農産物価格への市場原理化を重視しすぎている。
◎第2項では、国内産の農水産物の自給率を高める目的を鑑み再生産を保障する施策を講ずる必要がある。
(第32条「自然循環機能の維持増進」について)
◎「日本農業全体の環境保全型農業への転換を図ること」を明記すべきである。また「有機農業の推進に対する保障、助成策」を入れるべきである。
さらに「家庭や学校給食等からの生ゴミ、残さの利用」についても言及すべきである。
第4節「農村の振興に関する施策」
(第34条「農村の総合的な振興」について)
◎第1項末尾は「~農業の振興その他農村の総合的な振興に関する施策を地域住民、地方自治体の意向を尊重しつつ計画的に推進するものとする」
に改める。
◎第2項末尾には「その際には地域住民、地方自治体の意向を尊重する。」との文言を付加する。
(第35条「中山間地域の振興」について)
◎第3項として「国は中山間地域及び平場での有機農業など環境保全型農業の振興を図るための支援策を講ずるものとする」を謳う。
(3) 第3章「行政機関及び団体」
(第37条「行政組織の整備等」について)
◎冒頭の表現は「国及び地方公共団体は、食料、農業及び農村に関する施策を講ずるにつき、情報公開と地方分権を旨として、相協力するとともに~」
とする。
(4) 第4章「食料・農業・
農村政策審議会」
(第39条「設置」~43条「権限」について)
○本審議会は農水省のもとにおかれこれまでの各種審議会のように省庁の決定の正当化に使われる可能性があり、
位置づけを変更する必要がある。
◎本法の理念を実現するため、審議会は独立した機関としての委員会として設置し、農政の領域を越えた政策立案について審議を行う、
内閣総理大臣のもとにおかれる「行政委員会」とする。委員会の構成は、国民各層、地方自治体の意見を反映できるものとし、
委員の選任は国会の承認事項とする。委員会の審議は原則公開とする。委員会の意見及び決定は尊重されなければならない。
委員会の事務局は農林水産省に置き、実務を遂行する。