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新基本法は世界の食料危機に立ち向かえない

[ 1999年02月28日 レポートに戻る ]

山浦康明(明治大学法学部兼任講師)

1  昨年秋より農業改革の具体的政策が農水省主導で進められ始めた。すなわち「提携米通信3号」 で述べたように、農水省が自民党の農業基本政策小委員会に基本方針を示す、という形で食料の安定供給の確保、生産者価格への市場原理導入、 新たな食品流通政策、農地の確保と流動化策、を矢継ぎ早に打ち出した。
 そして、98年12月には、農政改革大綱が策定され、新農業基本法の法案に向けた改革プログラムが策定された。さらに同月、 2000年のWTO農業交渉開始の前段階で今年4月からコメの関税化を行うことを政府は決定した。 さらに同月に政府原案がまとめられた予算案には1999年度の農業政策も具体化されており、事実上新たな農業政策が実行され始めた。 しかしこれには多くの問題点が含まれている。

2  まずこの政策決定が民主的ではなく、農水省主導で決定されており、 国民がこれに関与することができない、ということが挙げられる。1998年9月に「食料・農業・農村基本問題調査会」 答申が出され農政改革が開始される段取りとはなったものの、答申の内容は総論の論旨と各論の論旨に整合性が欠けており、各論では、 株式会社の土地所有問題、食料自給率の目標設定、中山間地への直接所得保障などの論点が不透明なまま残され、 総論での農的社会の理念はりっぱでも具体化にとぼしいなど全体的に玉虫色に表現された。そのため、 総論の趣旨から外れていないという弁明を留保しながら実際には農水省が自らの考え方を推進するという戦略で、 農水省の権益を確保するねらいを込めて各種の新たな農業政策を出してきたのである。
 早期関税化については、本通信でも、牧下さんのWTOの交渉経過の報告と橋本さんのGATT農業合意の経過とその批判に述べられているように、 国民の意思を無視した密室協議がまたもや行われた。上記調査会では、「国内農業生産を基本とする総合食料安全保障政策の確立」 の必要性は述べるものの、輸入自由化問題は具体的に論じられておらず、ミニマムアクセスの問題点や、 次期交渉にかかわる情報公開が国民になされないまま、農水省主導でコメの関税化を決定したのである。 そしてその内容は農水大臣が強調するように高関税によりコメ輸入を阻止し続けられる保障はない。また何よりも、 この政策決定が日本の農業をいかに発展させるかの青写真をも国民的に検討することなく、拙速で決定したことは問題である。

3  農業政策の提案が新農業基本法の成立をまたずに官主導で次々に行われており、 これもまた多くの問題をはらんでいる。基本問題調査会の答申の各論で示された提言のいくつかが昨年秋以降、農産物価格への市場原理導入、 食品産業の利益を優先させる食品流通政策の導入、農地確保・流動化政策、などとして矢継ぎ早に農水省によって打ち出され、98年12月には 「農政改革大綱」と2003年度までの「農政改革プログラム」がまとめられた。 そして1999年度の農業予算原案のとりまとめが行われその中に新農業政策がはやくも盛り込まれたのである。これは、 新農業基本法案の柱となる農政改革大綱は示したもののそれ自身が総花的な農政改革の内容であり、議論が煮詰まっていない論点については、 予算化することによって農水省主導で既成事実を作り上げようとするものに他ならない。その具体的内容は、価格政策から所得政策への転換として、 99年度予算には大豆・麦の生産振興費として63億円余りが計上されてはいるものの、コメ・麦・大豆の市場価格化をすすめ麦の民間流通への移行、 大豆の交付金の見直しを打ち出した。これは調査会報告の食料自給率の向上を保障するものではない。また持続的農業総合対策費として24億円余り、 家畜のふん尿・ 家庭の生ごみのたい肥化などに8億円余りを計上しているが予算枠は少なく算定根拠として実践主体の意見が反映されているとも思えない。 担い手問題では認定農業者支援リース事業のために全農に2.5億円の助成、大区画ほ場の整備と大型機械導入の815億円余りが計上された。 この予算の執行にあたっては現場で必要とされる、安い中古機械の購入などにも利用できるのだろうか、 建設業者や機械メーカーばかりが潤うことはないのだろうか。おしなべて「一般農政費」をみても新たな省庁再編に向けて、農水省の業務・ 権限の確保、農協の既得権確保、食品業者・農機具メーカーの利益確保といった側面ばかりが目立つと感じるのは私ばかりではあるまい。

4  調査会報告や農政改革プログラムでもふれられた「世界の食料需給のひっ迫」 に対応する政策はとなるとはなはだ心許ない。わが国の食料自給率の設定は努力目標として掲げられるにすぎず、中山間地域対策としては、 99年度予算で「新山村振興事業」208億円が計上されたがその予算執行は相変わらずの補助金のばらまきの観がある。 1月29日発足の中山間地域直接支払制度検討会においては直接支払いの対象地域の選別などの作業が始まると思われるが、 1998年のインドネシアの深刻な干ばつ、ペルーの洪水、フィリピンの干ばつ、中国の干ばつ、ロシア西部の干ばつ、 そして日本の低温被害をみるにつけても、各国ともそして日本も食料生産をこそ国の政策の基本に据える必要があるにもかかわらず、 フランスのような食料大国となる気概はみられない。もはや国の政策を頼みとするのではなく、 地域や提携活動の取り組みの中から食料の重要性を実践で示す必要がある。

 


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