「平成19年度食料・農業・農村の動向」(以下、白書)における、米生産調整を含む米政策についてまとめるとともに課題を指摘したい。
白書では、国際的な食料事情の変化と世界の食糧需給が中長期的にひっ迫する可能性を指摘している。
米の生産調整については、
「特に、米の生産調整を確実に実行し、水田において自給率向上が必要な麦、大豆、飼料作物等の生産を着実に進めることが重要。また、米以外の作物の生産が困難な地域においては、水田機能を維持していくという観点からも、飼料用やバイオ燃料用等主食用以外の取組を推進していくことが重要 」(概要・白書のポイント)
として、生産調整を強力に推進する方針をかかげている。その一方で、
「稲作単一農家の経営規模の縮小には、後継者がいないことや経営主の高齢化、単位面積当たり米販売額が少ないことが関係していることが統計的手法からも改めて確認されたことから、経営規模の拡大を目指す意欲ある農家に対し、経営の安定や人材確保といった面での支援が重要」(概要・白書のポイント)
として、稲作農業そのものが追いつめられているという認識に立つ。現状のように、稲作単一農家を実態として機能できないような生産調整政策をとりながら、稲作単一農家を経営的に成立させるのは困難である。
稲作に関して農業白書の本文では、「米の作付面積が大きいほど、10a当たりの生産費は低く、稲作所得が高い傾向にある」としており、稲作単一農家の経営的な可能性を示唆しているが、その一方で、「作付面積が0.5ha未満と0.5~1.0haといった小規模階層において、中山間農業地域は平地農業地域に比べて生産費や稲作所得の差が大きく、0.5ha未満層では中山間農業地域の稲作所得がマイナスになっているなど、中山間農業地域の多くの農家が生産費や所得の面で平地農業地域に比べて不利な条件にあることがうかがわれる。
このような状況を踏まえ、水田を維持し、農業の多面的機能を発揮させるため、将来にわたって農業生産活動を継続的に実施できるようにする取組が重要である」(本文p23)
としている。
つまり、農業経営としては、稲作単一農家での規模拡大が望ましいことは分かっているが、中山間地等の環境保全などを考えた際に、小規模な水田維持も必要ということである。
生産調整に批判的な視点から、このふたつを見てみよう。
まず、規模を集約し、稲作単一農家として経営的な体力をつけていきたいと考える農業経営者にとっては、一律かつ強制的な生産調整政策は、作業の繁雑さ、資源の分散などを招き、面積の拡大などが難しくなることを意味する。
一方、限られた面積しか持たず、作業面でも不利な中山間地における水田は、一律かつ強制的な生産調整政策の結果として耕作放棄やいわゆる捨てづくり(作付けするが、その後の生産のための管理をしない)を招く結果となる。中山間地と平地を持っている農家の場合、一般的には平地の水田を維持し、中山間地の水田を耕作放棄あるいは転作することが考えられるが、環境保全(災害防止)の観点から中山間地の水田を維持するために、平地の水田を耕作放棄する例もあり、必ずしも農業経営視点のみの経済的な合理性のみで行動するわけではない。
一律かつ強制的な生産調整政策は、その結果として、大規模化を率先して行おうという稲作農家と、環境保全上維持することが求められる小規模な中山間地の農家という両極端な農家の両方に不利に働いている。
制度上は、地域ごとに協議会をつくり、その中で生産調整の面積(数量)配分を行うこととなっているが、多くの地域協議会で一律的な配分が最初の前提となっている。
次に、米政策改革の取り組み-米価の下落とその対応(本文P24~)では、米価の下落について、
「(2007年産の米価下落に対応し、米緊急対策を実施)
主食用水稲作付面積は、2004年以降年々減少しているが、主食用米の需要量の減少に伴う生産目標数量の減少に見合うほどには作付面積が減少しなかった。
このため、2007年産については、約7万haの過剰作付けにより主食用の需要予測を21万t上回った。このように、①米の消費量が年々減少するなかで生産調整の実効性が確保できていないこと、②主たる売り手である全国農業協同組合連合会(全農)が概算金の取扱いを見直したこと、③過当競争に陥りがちな流通業界の構造であること、④消費者の米の購入動向として、低価格米への志向が強まっていること等から、当初、米の価格は大きく下落し、2007年10月には、前年産同時期と比較すると、一部の銘柄を除き、主な銘柄で約7~11%安の水準となった。
このような2007年の特殊な状況にかんがみ、2007年10月に「米緊急対策」が決定され、その具体的取組により価格の大幅な下落に歯止めがかかった。
(生産調整の実効性確保に向け、生産調整の進め方を見直し)
また、米価の安定を図るため、需給調整の実効性を確保する観点から、食糧法に基づく基本的枠組みは維持しつつ、生産調整の進め方が見直された。」(本文P24)
としている。しかし現実には、平成20年5月27日に「政府米(国産米)の販売の試行について」として、
「政府米については、毎年ある程度の数量を販売して年産を更新していくこととしておりますが、昨年10月の「米緊急対策」を踏まえて「当面、原則として販売を抑制」してきました。
その後、集荷業者団体等から販売業者への契約締結が例年になく早いペースで進む中で、販売業者の中からは、一部の銘柄について不足感が生じつつあるとの意見が出ており、また、卸売業者間の取引では、価格の上昇もみられます。
一方で、米穀価格形成センターへの上場がほとんど終了しているため、センター価格で需給動向を判断することもできない状況です。
このため、政府米は本来古米販売を基本としていますが、米の需給動向等を的確に把握する等のため、特例的に19年産米を含めた政府米の販売の試行を行うこととします。
なお、これによって、国内の需給・価格に悪影響が生じた場合には、中止を含めて取扱いを検討することとしています。」
と、6月より政府米の販売を再開し、「第1回目の入札は、平成20年6月9日(月曜日)、その後は隔週で実施します。」「当面、各入札回ごとに以下のとおりとし、今後、状況をみながら見直すこととします。(1)平成19年産米:7銘柄 1銘柄ごとに700トン(全体で5,000トン程度)(2)平成17年産米:21銘柄 1銘柄ごとに250トン(全体で5,000トン程度)」とした。
すでに、6月9日、24日の2回の「試行販売」が行われているが、平成19年産米については、6月9日の売り渡し予定量4900トンに対し、申し込みは40230トンあり、6月24日には4銘柄の予定数量を増やして販売対象数量を6100トンにしたが、全量落札され、価格も前回より平均で高くなっている。
このように、現実に米の不足感は衰えておらず、「米緊急対策」等で、自由化したはずの国内米生産、流通、販売に政府が介入した結果、市場が混乱していることを意味している。
米余りといわれながら不足感を生じていることに、市場に政府が介入することの無意味さを感じる。
平成19年度食料・農業・農村白書の公表について平成20年5月16日
http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/joho/080516.html
政府米(国産米)の販売の試行について平成20年5月27日
http://www.maff.go.jp/j/press/soushoku/keikaku/080527_1.html
政府米(国内産)の販売の試行の結果について平成20年6月10日
http://www.maff.go.jp/j/press/soushoku/syoryu/080610_1.html
政府所有国内産米穀の一般競争入札による売渡しの結果について
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/syoryu/hanbai/kekka.html